影霊 九の章 21
「……大丈夫。私は戦える」
幽吹は、冷気を発する塊を手にしていた。
何だろうあれ……ドライアイスかな? 冷たそう。
「……まさか、それって!」
母には、心当たりがあるようだった。
「っ!? させないわよぉっ!!」
母の声を聞いた市おばさんが慌てて飛びかかる。針の如く硬化した髪が、幽吹に向けられる。
「……使わせて貰うわ、銀竹」
握り締められたドライアイス的な塊は、昇華して無くなってしまった。
幽吹の深い緑の髪が、銀色に変わる……
「《銀嶺》」
銀髪の幽吹は、瞬間的に生成した細長く鋭い氷の剣を振り払う。
剣からは吹雪が巻き起こり、市おばさんを吹き飛ばした。
「……大丈夫そうだな。八房も参る!」
黒い電気を纏い、八房が走り出す。
イヌの相手は……
「お久しぶりです。八房」
「ええ! 姉上とは一度本気で戦ってみたかった!」
「私もですよ」
姉であるキツネ、崎さんだ。黒い雷と白い炎が激突する。
幽吹は、再び立ち向かってくる市おばさんを蹴り飛ばし、母が俺に向けて放ったゴムの矢を氷の剣で弾いた。
「司! あなたは月夜を攻撃して! 私があなたを守る!」
「わかった!」
母に攻撃を三発当てさえすれば、勝ちだ。
幽吹が援護してくれるなら、それも不可能ではない。
「『墨連雀』! 『透刄』!」
俺の中では定番となった連雀。
それと共に、新開発の透刄を発動する。
母は、輪形の影を発動し、待ち構えた。
透刄のモデルは蛾である。しかし、ひらひらと舞うのでは無く、高速で飛ぶ銃弾の如く母を襲う。
「……狙いが外れてる……えっ……!?」
母の横腹を掠める透刄。大丈夫、攻撃力は抑えている。痛みは無いだろう。
「……どうして!? 攻撃は外れたはず!」
母が初めて見せる狼狽。
透刄の銃弾のように見える部分は見せかけ、その周りには不可視の刄と化した翅がある。
まぁ、実際には真に不可視なのではなく、影を極限まで薄くすることで、見え難くしているだけだが。
墨連雀と共に大量に発動したので、母の対応が遅れ、狙いが逸れたと思って見過ごした透刄の一つが、母に命中したというわけだ。
どうしてと聞かれても、この原理を口に出して教えてあげるほどお人好しではない。本気で戦う姿を見せなければ。
「あと……2発だよね?」
「……そうね。やるじゃない」
母は輪形の影をもう一つ追加した。
もう見過ごす事は止めるようだ。
墨連雀と透刄を混ぜた攻撃は通用しにくくなったか……