影霊 イナノメの章 2
幽霊機関車ひがくれ号が向かっている先は北海道の山中にあるという雪女の隠れ里。幽吹の友人であるつらら女の銀竹が率いている。
先日の戦いで幽吹は銀竹に世話になったとの事なので、お礼を言いに行くのだ。
「でも、俺の陰力が保たないんだよね」
ひがくれ号の走るレールは、御影の人間に伝わる陰術、影を操る能力によって形成したレールである。結構な苦労の末ものにした技術だが、長時間持続できるものではない。
「休み休み、ゆっくり進めばいいわ」
共に北海道に向かう事を提案した幽吹は、そう言ってくれる。
乗員わずか4名の蒸気機関車。儀右衛門の作った食堂車や、寝台車両なども連結されており、いわゆる豪華寝台列車って感じだ。俺たちが乗っているこの客車も居心地が良い。
「風尾や弁慶にも乗ってもらいたかったよね」
「そうだな。あの者達にも大いに助けられた」
儀右衛門が頷く。
俺の仲間である鎌鼬の風尾と大入道の弁慶は今、この場にはいない。先日の戦いが終わった後、二人はそれぞれ修行の旅に出たのだ。
風尾は鎌鼬の始祖であるシナツを。
弁慶は日隠村村長、四方裏綾乃の古い友人である大人(オオヒト)の八雲水臣を師として。
「風尾と弁慶、二人とも向上心があって感心するわね。それに比べて……」
幽吹は冷めた視線を逢魔に向けた。
「あ? 何見てんだこら」
逢魔も対抗してガンを飛ばす。
「やめろ、喧嘩はやめろ」
「司が言うならやめるわ」
「へっ、相手にならねぇよこんな奴」
「は? は? 相変わらずナメくさった霊ね」
「もうやめて幽吹さん」
気を抜くとすぐにこうして互いに挑発をする。幽吹が村で危険分子扱いされていた理由も分かるし、逢魔も逢魔ですぐに熱くなる。
風尾と弁慶がいればもう少し落ち着くんだけどなぁ……