影霊 九の章 11
「面白いお友達ね。私達はいつでも始められる。司は?」
「俺たちも大丈夫」
結局幽吹と八房が村に帰ってこなかった事には少し心残りがあるが……仕方が無い。
「模擬戦と言えど、ある程度本気で戦って貰うわ。あまりに白熱し過ぎると私が止める事もあり得るけど、それは了承してね」
模擬戦を取り仕切る綾乃の言葉に俺と母が頷く。
綾乃は黒い鉄扇を手にし、広げた。
「それじゃあ……月夜対司の選挙開始!!」
宣言と共に鉄扇を頭上に振り上げると、周りの妖怪達から歓声が沸いた。
「選挙って何だ?」
「さあ? とにかく始まったよ!」
逢魔が疑問を浮かべるが、風尾はそれを一蹴する。
「みんな! 作戦通りに!」
選挙という言葉……確かに気になるが、考えている暇は無い。
やはり母さん達はこちらの動きを待ってくれているようだ。まだ身動き一つしていない。
なら遠慮なくやらせてもらう。
「逢魔!」
「おう!」
俺は叢影を振り払い、『墨連雀』を発動する。
小鳥達は、逢魔がピンと横に張った長い鎖に次々と足を止める。
「燃えろ!」
逢魔が叫ぶと鎖が赤熱し、連雀達に赤い炎が灯った。
「『紅蓮雀』!」
発火した連雀が飛び立ち、小さな火の玉となって陣形を組んで突進していく。
「へぇ……綺麗な影ね。崎姫! お市!」
母の指示で、崎さんと市おばさんが動く。
崎さんは大きな尻尾で、市おばさんは長い黒髪を更に伸ばして紅蓮雀を振り払った。
炎だけでなく、中身の連雀まで消え失せてしまう。
「ええっ、あっさり……」
炎を纏わせる事により、墨連雀の攻撃力を高める事を狙った紅蓮雀だったが、まさかここまで通用しないとは……
「気を落とすな司。風尾、拙僧達も動くぞ!」
「うん!」
弁慶は大きな薙刀を召喚し、風尾は両手と尻尾を鎌に変化させた。
「崎姫、お市。司の周りにいる妖怪達を分断させて」
「わかりました」
「任せてぇ!」
まず崎さんがこちらに飛んできた。風尾と逢魔が立ちはだかる。
「鎌鼬の風尾と……そちらの変わった霊は、どなたでしょうか?」
「逢魔様だ!」
崎さんは両手から白い炎を発するが、その炎は逢魔が拳で打ち消した。
「あら、やりますね。逢魔さん」
すかさず風尾が崎さんの背後に回り込む。
「『凶鎌仇風』!」
風尾の交差させた鎌が崎さんを襲う。
「……冷たい鎌。風尾さん、あなたも……ただの鎌鼬ではないようですね」
「これでも鎌鼬の長だからね!」
風尾の攻撃を避けること無くその身に受けた崎さんだったが、大きなダメージは負っていないようだった。
「あなた達は私がお相手します」
崎さんは、白い炎の球をいくつも作り、逢魔と風尾に差し向けた。逢魔と風尾は空を飛んで逃げ回る。
八房の姉だけあって、戦い方が似ている。扱うのが炎か雷かの違いだ。