影霊 九の章 7
「綾乃から聞いたよ司! 模擬戦、一緒に頑張ろうね」
「拙僧に任せておけ」
夕方、儀右衛門の蔵から帰ってきた風尾と弁慶はやけに張り切っていた。そんなに俺の母と戦うのが楽しみなんだろうか。
俺としては、陰力の使い手の先輩としての母の姿は目にしておきたいが……それだけなら無理に戦わなくてもいいのではないだろうかとも思う。もっと平和的に学ぶ方法はあるはずだ。
「誰か手伝ってくれそうな妖怪は見つかった?」
風尾が訊いてくる。
「八房に頼もうと思って探してたんだけど、あいにく村にいないみたいなんだよね」
「そうなんだ……なら、ぼくがお爺ちゃんに頼んでみようか?」
「匠骨も手を貸してくれるかもしれん」
風尾と弁慶が言う。
「いや……別にそこまでしなくてもいいよ」
「そっか……」
風尾は少ししょんぼりした。せっかくそう言ってくれたのだから、甘えるべきだったか……?
しかし、一度共に戦ってくれた者達とは言え、模擬戦にまで彼らを呼び出すのはどうだろう。流石に迷惑じゃないだろうか。
その後、綾乃が帰って来たので、皆でいつものように夕食をとる。
「ねぇ、司。少し話があるんだけど」
そろそろ寝ようか、と思って寝室に向かっていると、風尾がそう言いながら追いかけてきた。
「どうしたの?」
「えっと……司のお母さん、月夜が村に来るのは、司の実力を測るためだと、ぼくは思うんだ」
おずおずと話しだす風尾。
「うん。だから模擬戦をするんだよね」
それで、俺の至らない部分、陰力の使い方等を教われたら助かる。
「そう。でも、月夜は……司の実力が足らないと判断した場合……司が前に住んでた家に、連れ戻しちゃうんじゃないかなって……」
「母さんが?」
そういう可能性は考えもしなかった。確かに、俺が御影の人間としてやっていけないと見做されたら、親としてはそういう決断を下してもおかしくはない。
だが、この村に俺を送り込んだのは母本人だし……
「だって、司に御影の人間として、頑張って欲しいと思ってるなら。もっと昔からいろいろ教わっててもおかしくないよね」
それはそうだ。母は霊感がある事さえ黙っていた。ずっと一緒に暮らしていた崎さんや、市おばさんも、妖怪であると打ち明けてはくれなかった。こちらは霊が見える、見えると馬鹿みたいに喚き立てていた時期があったにも関わらず。
陰力や霊力を扱い始める事に、適正な年齢があったとしても……少し遅過ぎるのではないだろうか。