影従の霊鬼夜行 第二幕 ヨアカシの巻 イナノメの章1
妖怪の理想郷、日隠(ヒガクレ)村。
俺はそこに暮らす人間。名前は御影司。趣味は水族館や動物園巡り。最近は行けてないけど……あと、一応剣道の有段者。才能は全く無いけど……
御影家の人間は代々、日隠村で妖怪と共に暮らしてきた。そして日隠村に住む全ての者の宿敵、旭と戦う使命を背負っている。俺も例外ではない。ただ俺の母親、御影月夜があまりにも強いので、俺は母のバックアップって感じだ。
そんな俺は今、日隠村の外で列車に乗っている。村を初めて訪れる時も列車に乗っていた気がするが、あの時とは状況が異なる。
まず乗っている列車……一般的な電気で走る電車でなく、黒鉄の蒸気機関車。それも妖怪、幽霊機関車なのだ。名前はひがくれ号。
そしてあの時とは違い、同行者もいる……
「私も何度か電車には乗ったことあるけど、あれとは違って意外と静かなのね。ほら、ガタンゴトンって音がしないじゃない」
俺の隣に座って耳を澄ます少女。少女とは言ったが、俺よりは少し年上の女性といった風貌で、なおかつ人間でもない。
妖怪、魑魅。彼女はそう自称していた。名前はユブキ。漢字で書けば幽吹となる。妖怪の世界では山陰の幽吹と呼ばれて結構有名らしい。
「一度すぴーどに乗れば、機関の音も抑えられる。手入れは万全だ。ガタンゴトンという音が鳴らないのは、れーるに繋ぎ目が無いからだな」
幽吹の言葉に答えたのは、ひがくれ号の車掌、儀右衛門だ。彼も塵塚怪王という妖怪で、物を操る能力を持っている。
「……別にあんたに答えて貰いたくて言ったんじゃないんだけど」
「それはすまない」
車掌のコスプレをしたからくり人形が、うやうやしく頭を下げる。
「なるほどな、司の陰力で作った線路だから繋ぎ目が無いってわけか」
儀右衛門の説明に納得するのは、冠を被った霊、逢魔だ。客車の中をふわふわと漂っている。
「なあ司、ちょっと繋ぎ目作ってみようぜ。音が鳴るかもしれねぇ」
「そんな器用な事できるか。危ないし」
村にある御影邸に封印されていた逢魔を解き放ってしまったのは俺である。喧しくて仕方がなかったので解放したが、解放した後もその喧しさは変わらない。こうして付いて回っている時点で、状況はむしろ悪化していると言えなくもない。
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