影霊 ガリョウの章 17

社殿に残ったのは、幽吹、嵐世、炫彦、鬼然、銀竹と異香、赭土の七人。
「はぁー、やっと終わった。さ、帰ろ帰ろ」
幽吹は大きく伸びをした。
それを見た炫彦が口を開く。
「気楽なもんだな。これからが大変だってのに」
「今までは先頭で導いてたけど、これからは後ろから導くとするわ。気に入らないって言うなら辞めてやるから」
狡いとは思いつつ言ってしまう。
「いや、別に良いけどよ……なんか吹っ切れたなお前」
「そう?」
「百鬼夜行ってさ、元はと言えば幽吹ちゃんのワガママで出来たんでしょ? だから、もっと自由にやっていいと思うよ私は」
「え、幽吹様のワガママってどういう事なんですか」
異香は詳しい事情を知らない。
「ワタクシ達四候が、イナノメ軍と戦う為に創設したというのは建前……本当のところは、幼き頃の御影司くんを狙う者達から守る為にと、幽吹がワタクシ、鬼然、炫彦に協力を呼びかけて作ったものですわ」
銀竹が説明する。
「へー、そうだったんですか。でも、結局戦う相手はイナノメ軍ですもんね」
「あるいは旭が送り込む冥鬼軍だな。どちらにしても多くの妖怪にとっての脅威に違い無い。だからこそ、百鬼夜行は日本各地の妖怪の拠り所となっている」
「ここまで大きくなるなんて思いもしなかったわ。司が村に住む事になったから、解散してもよかったんだけど……イナノメ軍がまた動き出すって言うなら、仕方ないわよね」
「ほんと、幽吹ちゃんの異常性愛がまさかこんな事になるなんてね〜」
「言っとくけど、最初はほんの親切心よ。月夜の奴が村から離れて育児するんだもの。危険極まりないっての」
「はいはい、最初はね〜」
「……嵐世が言えたことではありませんわ」
「ですよねー」
幽吹と嵐世の言い合いを、冷ややかに見つめる銀竹と異香。

「しっかし、今回の戦いはいつまで続くかね」
帰る帰ると言いつつ、長話になってしまう。
「前回は一年と経たずに収まったけどね……ミカミは何を考えてるやら」
「御影の人間と連動しているとの説がありましたわよね? 月夜に加えて司くんが力を付けているからでしょうか?」
「つまり、前回の戦いが終わったのは、八代目、御影綴が身を隠したからか?」
「なら、月夜に隠居して貰えばいいんじゃねーの」
「あるいは司にね。私は良いわよ。ひっそりと暮らすのも」
「ちょっと待って幽吹ちゃん、八代目の理屈なら私が司くんを匿う必要があるよね」
嵐世が声を上げる。
「まあ……そうかもね。じゃあもしそうなったら、あんたに協力して貰うから」
「うん」
「あと、月夜を隠居させる場合はあんたが面倒見なさいよ」
「えっ……それは……司くんでいいじゃん。月夜の方が強いわけだし」
「八代目の理屈なら年長者が隠居すべきじゃない?」
「また始まったぜ」
「珍しく幽吹が優勢ですわ」
「おい待て、まさか嵐世まで司の事を?」
「嵐世の場合、大好きな幽吹に構って貰うためには、司くんとも仲良くする必要があるんでしょうけど……その仲良くの度合いが分からなくなっているようですわね」
「大変だな司も……」

#小説 #ヨアカシの巻 #ガリョウの章

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