影霊 九の章 18

更に4発、計10本目の矢を俺が受けた頃……
「また誰か戻ってきたわね」
「マジで!? いったい!! ひどい!」
母の言葉で、辺りを見回そうとしたところに11本目の矢が飛来する。
「油断しちゃダメよ」
母はそう微笑むと、遠くに視線を移した。
俺を騙したわけではなく、本当に誰か戻ってきたようだ。大きな影が見える。
弁慶か、市おばさんか、果たして……
「遅くなったわね月夜ちゃん。結構苦戦したわ」
「おかえり。ありがとね」
戻ってきたのは、大首、市おばさんだった。
弁慶は、負けてしまったようだ。
市おばさんの髪がボサボサなのを見ると、相当激しい戦いだった事には違いない。
「司、どうする? 降参してもいいよ」
母が訊ねる。
確かに、俺が母に勝つためには、弁慶との共闘が欠かせないと考えていた。それに、崎さんと市おばさんが揃ったこの状況、俺に勝ち目は無い。
でも……
「模擬戦なのに、降参とかしていいの?」
母との戦いの中で、俺は何かを学びとらなければならない。
「そうね。続けましょう。でも、あと9発当たると司の負けよ」
母は嬉しそうに言って、弓を構えた。
「ねぇ、月夜ちゃん……」
市おばさんが母に何かを囁く。
「……終わった後に話すわ」
「でも、それじゃあ……」
一体何の話をしているんだろうか。気になるが、それどころではない。
母は引き続きこちらに狙いを済ましている。
「……『月沼』」
「うおっと、あぶねぇっ!!」
母の射った矢は、俺の足元に刺さった。
狙いが外れた? でもこれ、ゴムの矢じゃないよね!? 思いっきり地面に刺さってるじゃん!
「外したんじゃないわよ。わざと狙ったの」
母がそう言った途端、俺の足元が揺らいだ。
「これって……!」
……この感覚。俺は一度経験している。
影の沼が足元に生成され、俺の足を飲み込んでいるのだ。
かつて綾乃から陰力を教わる際に、俺は似たような技をかけられている。これから抜け出すには……
「司、自分の陰力で抜け出すしかないわよ。はい、12本目」
身動きの取れぬ俺に、矢を放った。
「痛い! お腹ばかり狙うのやめて!」
痣が酷いことになってそうだ。見るのが怖い。
「一番安全なところ狙ってあげてるのよ」
確かに、いくら刺さらないとはいえ、頭の方に飛ぶのは嫌だけど……
「勝負決めちゃうわよ。頑張ってそこから抜け出してね」
母は矢を継いだ。
まずい、これじゃあ俺はただの的だ。抜け出したいが……俺はこういう影の操作はまだ出来ない。
「13本目」
「頼む『塗壁』!」
霊力を集中させて、召喚術を発動する。
1日に2回しか召喚出来ない犬の壁、塗壁だ。
三つ目の大きな犬は、俺の目の前に現れ、飛来したゴムの矢を受け止めた。
「……へぇ、召喚術は使えるんだ」
母は関心してくれた。

#小説 #九の章

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