影霊 キの章 6

辺りを旋回し、地上を隈無く見下ろす。火縄銃が落ちてやいないだろうか。
叢影は相変わらず煙を吐き続けている。
調子が悪いとかじゃないよな。儀右衛門の霊力のせいとか……
「あっ、司! あれだよ!」
風尾が見つけた。
俺たちの前方を飛ぶ、一丁の火縄銃。地上ばかり見ていたせいで気付かなかった。付喪神となった火縄銃は、宙に浮いていたのだ。
「吉田と桐竹、どっちだろう」
見分ける方法は知らない。
「とにかく捕まえよう」
風尾がスピードを上げる。前方の火縄銃はゆっくりと後退する。逃げる気か。
叢影の煙は……二つ分かれて上がっていた。一つは前方、そしてもうひとつは……!
「風尾! 後ろにもう一方!」
火縄銃に挟み撃ちにされている!
「前のが撃ってくる!」
前を追う風尾が叫ぶ。見れば、後ろも危ない。
「急降下だ!」
「うん!」
風尾は空を飛ぶための霊力を抑え、地面に降りる。
間一髪のところで、挟み撃ちから逃れた。
「あっぶねー」
撃たれたらどうなっていただろうか。
「司、こうなったら戦おう」
風尾が両手と尻尾を鎌に変化させる。
俺も叢影を抜いた。黒い刀身からは引き続き煙が出ている。
「『墨連雀』!」
叢影を振り、羽根の先に刃を持つ鳥を多数発動し、二丁の火縄銃に向けて飛ばす。
二丁の火縄銃は、黒い弾丸を連射し、墨連雀を的確に撃ち落としていった。
なんて連射性能。普通の火縄銃ではきっとあり得ない。
「こっちに撃ってきた!」
黒い弾丸が地上にいる俺たちを襲う。
風尾の鎌が弾き返そうとするが……
「うわっ!?」
黒い弾丸は鎌に当たった途端、煙幕のように炸裂して広がり、風尾の純白の毛並みを墨色に染めた。
「大丈夫!?」
「げほっ、げほっ、ぼくは大丈夫!」
特にダメージは無いようだ。良かった。
続けて火縄銃が黒い弾丸を撃ってくる。今度は俺狙いだ。
「『穿山甲』! あれ、穿山甲!」
盾のための穿山甲を発動しようとするが、叢影を振っても発動しない。どうなってる!? 言う事聞いてよ! 反抗期か!?
どうする事も出来ない俺に、容赦なく浴びせられる弾丸。
だが、これも風尾が食らったのと同様。黒い煙幕となった。痛みは無い。
「げほっ……」
特に焦げ臭かったりするわけでもない。この煙幕は、叢影の発している煙と同じようなもの。きっと陰力だろう。
叢影の発する煙と、火縄銃が撃った煙幕が混ざり合う……
すると、空を飛んで銃口を向けていた二丁の火縄銃が、こちらに降りてきた。
そして二丁の火縄銃は、俺の足元に大人しく並ぶ。
「……もしかして、ツキヒの武器同士の挨拶みたいなものなの?」
敵とみなして撃ってきたわけでは無かったようだ。
叢影が発していた煙も、この挨拶を求めてのものだったのかも……
「吉田と桐竹だね?」
何となくそう聞いてみると、火縄銃は銃口から黒い煙を吐いた。
まさかコミュニケーションが取れるとは。
「俺は御影司。儀右衛門のところに帰ろうか」
再び煙を吐く。
俺が足を進めると、二丁の火縄銃は後ろを付いてきた。信用してくれているみたいだ。
「真っ黒になっちゃったね」
黒く染まった風尾が言う。
俺も黒くなってるみたいだ。擦ると取れるので、大した事は無さそうだけど。
いきなり撃ってきてびっくりしたが、これで吉田と桐竹は確保した。儀右衛門の蔵に帰ろう。

#小説 #キの章

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