影従の霊鬼夜行 獣の章 1
目が、覚めた。
「姿が見えないと思ったら……何であんたが司の部屋で寝てるのよ!」
「いいじゃん! 司の寝込みを襲う奴が出てこないとも限らないし! 現に、ほら!」
「はあ!? それなら逢魔でもいいでしょうが……何よその目は! 違うわよ私は!」
幽吹と風尾が言い争う声。
「逢魔はうるさいから嫌……って、まだ3時じゃねーか! ふざけんなおい!」
寝ぼけ眼で時計を見たら早朝3時だ。殆ど眠れていない。ふざけた真似しやがって……
「一体何の騒ぎだよ」
「ついさっき、天狗の使者が来たわ。三将は私の交渉に乗ってきたみたい」
「……へぇ、それは良かった。頑張ってね」
再び布団にうずくまる。
「司も! 行くのよ!」
幽吹は俺の布団を引っぺがしてきた。
「やめて、寒い」
「付いて来なさい」
「えぇっ……」
俺も行かなきゃいけなかったのか……
「司に手出してないでしょうね」
「変化出来ないって言ってるじゃん。幽吹こそ、司を呼ぶにしたって何で部屋まで入ってきたのさ」
「あんたが見当たらないから、まさかと思って覗いただけよ。それにあんた、ダニとか付いてるんじゃないの? 人間はアレルギーとかあるんだから……」
「付いてないよ! もう怒った! 変化してやる! 変化の特訓してやるうっ!」
「せいぜい頑張りなさい。私は教えないけど」
幽吹と風尾はしばらく言い争いを続けた。
しかし、幽吹の提示した条件は、村にいない妖怪をこの村に連れ戻す事らしい。つまり俺達は村の外に行かなければならないのでは?
一体どうやって……歩いて?
「はーい、それじゃみんな行くわよ。乗って頂戴」
庭に出ると、そこには帰ってきていた綾乃と、巨大なフクロウが待機していた。逢魔と弁慶は既に丸々とした猛禽類の背に掴まっている。
移動手段は確保されたようだ。
「帰ってたんだ」
「遅くなったわね。話は聞いたわ。村の外なら私も自由に動けるから」
「急いでくれ。こいつ、乗り心地が悪い。飛んだら楽になるらしいが」
フクロウの背中にしがみつく逢魔が言う。そもそもお前は飛べるだろ……
俺と幽吹がフクロウに乗れば準備完了だ。
綾乃が召喚した猛禽類はゆっくりと羽ばたき、空を飛んだ。翼を広げると、その巨大さが一層実感できる。
確かに、一度飛んだらフクロウの背中も安定して、なかなか乗り心地が良い。
風尾は空を飛んで付いてくる。逢魔も空は飛んでいるが、両腕はフクロウの羽根を掴んでいる。空を飛んでいると言うより、引っ張って貰ってるみたいだ。
「まずはどこに向かえばいいのかしら」
綾乃の問いに幽吹が答える。
「カラスね。あいつが一番物分かりが良いわ」
綾乃はフクロウに囁いて、進む方向を指示した。