影霊 ガリョウの章 8

休憩時間を終えて、ひがくれ号は日隠村に向けて走り出した。
「メシの時間にするぜ」と逢魔が呼びかけると、嵐世と銀竹、雪女達が食堂車に集まってくる。
熱いものが厳禁な雪女達のために、俺と逢魔は冷製の和風海鮮パスタを作った。材料は十分にあるし、たくさん作るのもそれなりに簡単だ。氷雨ちゃんにも手伝ってもらった。幽吹も……まぁ、彼女なりに頑張っていたらしい。
雪女達の反応を見ていると「美味しい」といった声が数多く上がっていた。口に合ったようだ。良かった。
「なかなか好評みたいだな」
得意の熱々鉄板料理を振る舞えなくて残念がっていた逢魔もニヤリと笑う。
「これは……美味ですわね。ワタクシ、大変気に入りました」
賞賛の言葉をくれる銀竹。
「本当? 銀竹から褒められると嬉しいなぁ」
銀竹は幽吹と違って料理好きだし、同じ四候である火車の炫彦の料理を口にする機会も多いはずだ。
「ああ、炫彦の料理は美味しいんでしょうけど……ワタクシの口には合いませんの」
「そうなんだ」
逢魔に喧嘩と料理のやり方を教え込んだ炫彦は、自身の料亭を開くほどの腕前の持ち主なのだが、逢魔と同様に熱い料理を得意としている。そのせいで銀竹は苦手意識を持っているらしい。
「司くんはどうして料理を?」
「ああ、母さん達がよく家を空けてたからそれで。あとは、家に押しかけてきた幽吹が何か作れとうるさかったりして……」
料理はまぁ、好きである。手際や技術こそ持ち前の器用さでメキメキと腕を上げる逢魔に抜かれてしまったかも知れないが、知識だけなら簡単には負けないだろう。
「はぁ。幽吹、あなたって妖怪は……」
幽吹に対して冷たい眼差しを向ける銀竹。
「何よ。霊力が足りないんだから水と食事で補うしかないじゃない」
一切悪びれない幽吹。
なるほど、いつも腹を空かせていた理由はそれか……
「……ところで司くん。この冷たいパスタの作り方をワタクシにご教授して下さいます?」
幽吹に何かを言い聞かせようとするのを早々に諦めた銀竹は、俺にそう言って頼んできた。
「それはもちろん良いんだけど、パスタを茹でないといけないんだよね。大丈夫?」
「問題ありませんわ。ワタクシは多少の熱なら耐えられますから」
だからこそ自分が作れなくては困るんだそうだ。後で雪女達にまた作ってくれとせがまれるかも知れない。仲間想いの良くできた里長である。
「私はあったかいのが良かったな〜。最近冷たいものばかりで飽きちゃった」
一方では、ごちゃごちゃと文句を言う者もいた。嵐世だ。
「アラサラウスがまだ食べ足りないでしょうから、譲ってきなさい」
文句があるなら食うなと幽吹が叱る。
まぁ、嵐世の言う気持ちも分からんでもないし……
「あったかいのも作れるよ。作ってこようか?」
ソースを温めてパスタを茹でるだけだ。それはそれで美味しいに違いない。
「……じゃあ、それはまた今度作ってよ」
面食らったような表情で言った嵐世は、ゆっくりと箸を進める。
俺は頷いて応じた。
「一杯やろうぜ」
逢魔が酒を持ってくると、皆のテンションが上がる。
さて、飲めない俺はアラサラウスの様子でも見てくるか。貨物車で一人、寂しくしてるかも知れない。
逢魔の作ったおつまみだけでも持っていってやろう。酒は……俺の判断ではやれない。基本的に妖怪は酒で酔うことは無いみたいだけど。

#小説 #ヨアカシの巻 #ガリョウの章

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