影従の霊鬼夜行 キの章 1

「ねぇ風尾、司知らない?」
屋敷に司がいない事に綾乃が気付き、風尾に尋ねた。
声をかけられた風尾は、驚いて飛び跳ねる。
「びっくりしたぁ、綾乃か……儀右衛門のところに行ったって弁慶から聞いたよ。逢魔も一緒みたいだから大丈夫じゃない? ぼくもこれから様子見に行くつもりだったし」
鏡の前でこそこそと何かの練習に取り組んでいた風尾が答えた。
「へぇ、儀右衛門のところに……ところであなたは今何してたのかしら?」
ニヤニヤしながら訊ねる。
「……変化の練習だよ。八房に基本は教えて貰ったんだけど、あまりうまくいかなくて」
「風曹には見て貰えないの?」
「お爺ちゃんが人に変化できるのか知らないけど、教えてって言ったら余計な事にうつつを抜かすなって怒られた」
「相変わらず古い考え方してるわねぇ」
風尾は頷く。
「それじゃぼくはそろそろ司の様子を見に行ってくるよ。何か伝える事ある?」
「いいえ、大丈夫よ。行ってらっしゃい」
綾乃は風尾を見送った。

以前訪れた儀右衛門の古屋敷は、跡形も無くなっていた。
近くに二棟あったはずの大きな蔵は、一つが半壊、もう一方は健在だった。儀右衛門がいるとしたら、健在な方の蔵の中だろうか。
「ゴミが一掃できて良かったじゃねぇか」
逢魔が言う。
確かに屋敷の周囲や、屋敷の中に散乱していたガラクタの多くは消えて無くなっている。
だが、あれをゴミとして見るのは、尚早なのではないか。今では滅多にお目にかかることのできない絡繰り人形なんかも、あのガラクタの中には混ざっていたように見えた。きっと、見る人が見れば、宝の山なんだろう。
まぁ、逢魔にとってはゴミに違いないか。
俺と逢魔は殆ど無傷のまま残されている蔵の扉を叩いた。
「よく来てくれた。入ってくれ」
案の定、蔵の中には儀右衛門がいた。
「悪いな、こんな姿で」
「えもん繋がり……?」
俺たちを迎えてくれたのは、俺も良く知る、青い狸のような姿をした有名なロボットを模った玩具であった。
「あいにく残っていた丁度良い物がこれしか無かったのでな」
本来ポケットがある部分が四角くくり抜かれ、そこには漆塗りの箱が入っている。
「もしかして、このお腹にはまってる箱が、儀右衛門の本体?」
「そうとも。この箱に触れた物は、ワシの思い通りに動かせる。ワシは万物の神、塵塚怪王の儀右衛門だ」
あくまで万物であって、万象ではない。物の神なのだ。
さらに例え物でも、限度や条件はあるらしい。大きさに制限があったり、ある程度古いものでなければならないとか……

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