影霊 嵐世の茶会 1

「幽吹ちゃんが反省? ええ〜、ちょっと信じられないなぁ」
「でもそう言ってましたわ」
天邪鬼の長、天逆毎の嵐世が気まぐれに開催する雲上の茶会に、つらら女の銀竹が出席していた。自然と欠席した幽吹の話題になる。
「私も性格歪んでるって言われるけど、幽吹ちゃんも相当なものよ? 反省なんてしないって」
「あなた方の性格が悪いのはワタクシも知ってますわ」
何を今更、といった感じの銀竹。
「私の性格は、まぁいわゆる天邪鬼だけど……幽吹ちゃんの場合は何なのかなぁ。好きな子につい悪戯しちゃうのを、さらに拗らせた感じ。加虐愛?」
「幽吹が傾倒している司くんが、その被害者というわけですわね」
銀竹が司を憐れむ。
「幽吹ちゃんは自分のせいで司くんが危険な目に遭った事を、反省してるって言ったんだよね?」
「えぇ」
「でもそれって、幽吹ちゃんの場合、日常茶飯事の事じゃない? だから仮に反省してるとしても、その点では無いと思うな」
「確かに……」
本当に危険な目に遭わせたくないのなら、そもそも司を戦に巻き込ませたりしない。
「実は、幽吹ちゃんが一番悦ぶのって、危機に陥った相手を自分が助けてあげる瞬間なんだよね。司くんの場合、それが特に酷いみたい」
「……理解できるような。できないような。とにかく遠回りで危険な愛ですわね」
「だよねぇ。で、今回の場合幽吹ちゃんは危機に陥った司くんを、自分で助けられなかった。あるいは、助けられたけど、司くんが自分で対処してしまった」
銀竹が冷えたお茶に口を付ける。熱い物はダメなので、冷やしてから飲む。
「前者の場合は反省する点、いろいろあるよね。自分で助けられなかったって事は、実力が足りないとか、計算を誤ったとか……」
「えぇ」
「でも、後者の場合はどうかな?」
「……反省する余地は、ありませんわね」
「でしょ? で、たぶん幽吹ちゃんは自分で助けられたんだと私は思うんだよね。だから、幽吹ちゃんは反省してないんだよ」
「なら幽吹はどうして村に帰らないのでしょう?」
幽吹は未だに銀竹の隠れ里で何かに頭を悩ませていた。
「次の作戦を考えてるんじゃないの? 司くんを、さらなる危機にどうやって追い込もうかって」
「……闇が深いですわね。あまり知りたくありませんでした」
「な〜んてね。今のは冗談。次の作戦なら別に村でも考えられるし」
「……やっぱりあなたと話すのは疲れますわ」
早く帰りたい。銀竹はそう思った。
「幽吹ちゃんは……弱くて、少し情けない司くんが大好きだったんだよね。自分の性癖にもってこいだったし」
「確かに、司君は御影の人間として力不足だと言われてましたわね。陰力が殆ど感じられないとかで……」
「うん。でも幽吹ちゃんが戦のとき見た司くんの姿は、今までの司くんとは少し違ってた。御影の人間として開花しつつあったんだろうね」
「えぇ。もしかしてそれがショックだったとか?」
「まさか。それなら綾乃に司くんを任せたりしないでしょ。幽吹ちゃんは、綾乃にだって牙を剥くよ」
「そ、そうですわね」
嵐世も嵐世。幽吹の事に詳しすぎないだろうかと銀竹は思う。
「幽吹ちゃんはきっと、頼もしい司くんも大好きだよ。虐め甲斐があるって思うはず。でも、幽吹ちゃんが今何かに思い悩んでるのは、司くんに、あの人の幻影を見てしまったからじゃないかなぁ?」
「あぁ……それは、あるかもしれませんわね」
一言主という銘の錫杖を持った初老の男の面影を銀竹は見た。

#小説 #影従の霊鬼夜行

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