影霊 キの章 11
翌日、俺たちは引き続き儀右衛門の手伝いに向かった。
俺は線路作り。逢魔、弁慶、風尾は逃げ出した付喪神集めだ。
蔵の中にいた吉田と桐竹は相変わらず俺に擦り寄ってくる。銃口を擦り付けるのは止めてくれ。こわい。
だが、今日はこの火縄銃を使って、線路作りに挑戦するのだ。
「でもさ、俺火縄銃の撃ち方なんて知らないんだよね」
火縄に火を付けて……銃口から、火薬と弾を詰めて……火皿に口薬を入れて? 火蓋を切って、引き金を引く? 素人の知識では、大体こんな感じだろうか。順序がバラバラかもしれない。更にこれを実際にやってみろと言われても、到底無理である。
「その火縄銃は付喪神だ。必要な過程は全て吉田と桐竹がやってくれる。君はただ、引き金を引くだけで良い」
相変わらずガラクタの山の中でカスタマイズをする儀右衛門が言った。
確かに昨日吉田と桐竹に遭遇した時は、勝手に煙幕となる弾を撃ってきていた。
弾や火薬の装填なんかは、必要無いというのか、すごいなこの火縄銃……
「弾を撃つだけなら霊力の供給だけで良いが、君の場合は陰力の供給も出来る。ある程度自在に操れるはずだ」
蔵の外に出て試し撃ちしてみる事にした。
安全のため、目の前に何もいない事を確認し、引き金を引く。すると、銃口から弾が飛び出た。銃声はあまり大きくない。心地良い破裂音だ。火縄銃の内部で、火薬の代わりに影が炸裂しているのだろうか。
黒い弾丸は、高速で彼方に飛んでいった……まずいなこれ、思ってたより飛ぶ。流れ弾とか怖い。
「何か丈夫な的とか欲しいよね」
そう思って、叢影に持ち替えて穿山甲を発動した。え? 塗壁? 的にするのは流石にかわいそうである。
硬い鱗を持つ穿山甲に向けて銃弾を放つと、銃弾は穿山甲の鱗を何枚か剥がしながらも弾かれた。
この弾は煙幕ではない。立派な実弾としての性能を持つ。
「煙幕撃とうと思ったら、煙幕撃てるの?」
吉田と桐竹に聞いてみると、銃口から煙を吐いた。出来そうだ。
「煙幕」そう言ってから引き金を引いて発射された弾は、穿山甲にぶつかると炸裂して煙幕となった。
なるほど……これは便利だ。非常に快適に使う事が出来る。普通火縄銃を二丁構えて、連射するなんて不可能である。現代の火器にも通用しそうだ。ただ、この快適性は、吉田と桐竹の付喪神としての能力がもたらしているんだろう。儀右衛門の影響下にあってこそのものか。
俺は穿山甲を引き連れて、蔵の中に戻った。穿山甲がいれば蔵の中で試し撃ちしながら作業が出来る。