影霊 キの章 4
「俺様は一旦、屋敷に戻って弁慶に手伝わせるぜ。風尾がいたらあいつもな」
「あ、そう? じゃあ俺は火縄銃探しとくよ」
空を飛べる逢魔は、屋敷に飛んで行った。いいなぁ、空飛べるって。
「いや、待てよ……おれも大きな動物を影で作れば……」
例えば馬。馬を影で作れば、お手軽乗馬体験が出来る。空は飛べなくとも、歩かなくて済む。
俺は馬を想像し、陰力で作り出した。
「……おっ、ほら触れるじゃん」
漆黒の馬によじ登る。本物の馬にこんな乗り方したら、怒らせて、蹴られて、踏まれて、俺は死んでいるだろう。
「よっしゃ、進め!」
そう命令すると、馬は軽快に歩き出した。
なんてこった。成功してしまった。こんなあっさり上手くいくとは。
しかし数分後……
「……疲れた。もう無理。吐きそう」
陰力を自在に動かすのは、自分で歩くより疲れるのだ。まだ陰力の扱いに慣れて無いからだろうか。あるいは日中だからか……いや、夜でも大差無いな。
何事もそう上手くはいかないものだ。
俺は馬を消して、のろのろと歩いた。
「塗壁は動き遅いしなぁ」
塗壁を召喚する事も考えたが、あれはまさしく壁だ。乗用ではない。
八房を簡単に呼べたりしないものだろうか。こんな事で呼んだら怒られるか。
そんな事を考えながら歩いていると……
「司ー! おーい!」
後ろの方から聞き覚えのある声がする。
振り返ると、空飛ぶ白い鎌鼬が。
「風尾! おお! 救世主よ!」
「儀右衛門の屋敷の近くにいないから、どこかと思って探してたんだ。一体どうしてこんなところを?」
俺は風尾に事情を話した。
「それならぼくと一緒に探そうか」
「ありがとう風尾!」
つい頬擦りしたくなっちゃう。本当にかわいくて優しいなぁこの鎌鼬は。
「逢魔の補助無しだと尻尾だけで持ち上げるの大変だから、ぼくを抱きかかえてくれる? それで一緒に飛べるはず」
風尾を胸に抱くと、体が浮き上がった。
これで探すのが楽になる。
「ごめんね。ちょっと……ふらつくかも」
風尾は顔を赤く染めてそう言った。あまり強く抱くと暑いかな。