影霊 九の章 8
「司は……どう思ってるの? 前住んでた家に帰りたい? お母さんと、一緒に暮らしたい? この村にいるのは嫌だったり……する?」
何か、抑えていた感情が溢れ出してしまったのだろうか。風尾は涙を零しながら問いかけてきた。
「おいおい、泣くなよ。どうしたんだ」
「……ごめん。ぼく、少し不安なんだ。やっと会えた司と、別れる事になるんじゃないかって……」
もしも、俺がかつて住んでいたところに連れ戻されたとしても、今生の別れになるわけではあるまい。
それに……
「まず一つ目の質問、前住んでたところに戻りたいか、だろ? それの答えは否だ。俺はあまり都会が好きじゃない。それに自慢じゃないが、人間関係もあまり上手くいってなかったからな」
唯一それなりに上手くやっていた幽吹は、妖怪だったし……
「……うん」
「二つ目、母さんと一緒に過ごしたいか。これはどちらかと言えば、是かな。前は否だったんだけど……村に来てからは話したい事や、知りたい事が増えた」
風尾は頷く。
「最後……三つ目、この村が嫌かどうかだっけ? 安心しろ。俺はこの村が好きだ。風尾や、逢魔、弁慶、みんな好きだ」
ついでに綾乃も……嫌いではない。信用は出来ないが。
「母さんと一緒に暮らしたいって思いも、無いわけじゃないけど……それ以上に俺はこの村にいたいんだ。風尾、お前たちと一緒にいたい」
「本当? 良かった……安心したよ。ありがとう司」
白い鎌鼬は俺の胸に飛びついて来た。抱き締めてやると、ふわふわしている。
「母さんにこっ酷くやられたら、この村から前の家に連れ戻されるって可能性。言われてみれば、それも否定できないね。だったら本気で戦わないと、って事を風尾は言いたかったんだろ? でも俺は、最初から結構やる気あったんだぞ? 母さんに、俺の実力を見せ付けてやろうって」
「そうなの? ごめんね。ぼく、早とちりしちゃって」
風曹や匠骨に助太刀を頼むことを拒んだ事が、やる気が無いと捉えられてしまったのだろうか。
「相手は母さん含めて四人。こっちだって、幽吹が抜けた状態でも四人だ。数だけなら互角。だから、闇雲に味方を集めたらいいってもんじゃないと、俺は思うんだよね」
「そうだよね。正々堂々と戦う姿勢を見せるのも、大切だよね」
風尾も気付かされたかのように納得してくれる。
だが……
「だからといって、このままでは俺たちが圧倒されるというのも、確実だろう。それは理解してる。せめて少しくらいは善戦できるようにしないとね。そしてその秘策は、既に考えてある」
「えっ、何々? 教えて」
「明日それが出来るか試すから、楽しみにしててよ」
風尾は強く頷いて、微笑んだ。