影霊 九の章 22

「月夜、大丈夫かい?」
母の背中に張り付いている空が訊く。
「当然。これくらいやって貰わないと」
母をやる気にしてしまったようだ。俺たちを狙って弓張月を構える。
「司、勝算はあるの? 私だけじゃ月夜と市、両方倒しきるのは無理よ」
飛来し続ける矢を薙ぎ払いながら、幽吹が訊いてきた。
「これ以上影の技で母さんに攻撃を当てるのは、難しいかも」
透刄は警戒されてしまった。
それに、俺が使える陰力も残り少ない。
「なら……どうするの?」
「少し、集中する時間を稼いでくれる?」
「分かった。司に従うわ」
冷気で氷の槍を形成し、母と市おばさん目掛けて投げた。
まるで、銀竹のような戦い方だ。
幽吹は大丈夫だろう。あとは俺が集中力を高めるだけ……
その間、八房と崎さんの戦いにちらと目を向ける。

「全力が出せていないようですね八房。ここまで来るのに疲れましたか?」
「姉上こそ、少し着物が乱れているようだ。余裕が見られないな」
崎さんは火力、八房は素早い動きを主体に攻撃を組み立てている。
九本の尻尾に加え、両手からも放てる炎の球や渦。
それに対して八房は、崎さんの周りを素早く駆け回りながら、八本の尻尾から雷の球や閃光を発する。
人に変化した事によるメリットと、獣の姿ならではのメリット……どちらが優勢なんだろうか。
「司くんの味方をするのは、どういった契機で?」
「姉上から引き継いだ、四獣神としての役割を取り戻してくれた」
「確か、嵐世さんも村に戻ってきたようですね。少し驚きました」
「姉上と嵐世は噛み合わなかったようだからな。この八房も、あの女は苦手だ。長く話していると食い殺したくなる」
「言葉使いに気を付けましょう。嵐世さんと同程度に落ちますよ」
姉妹の会話の中で、嵐世が好き放題言われていた。

#小説 #九の章

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