影霊 キの章 10

庭に面した座敷で夕食をとる。
大入道である弁慶が屋敷の中に入ってくると窮屈なので、弁慶は縁側に腰掛けてもらっているのだ。
「叢影と、火縄銃が呼応したの?」
綾乃がねだるので、今日あった事を簡単に説明する。
その中で、叢影の煙と吉田と桐竹が撃ってきた影の煙幕が混ざり合い、その後吉田と桐竹が大人しくなったという話に綾乃は興味を持った。
「吉田と桐竹が儀右衛門の能力で付喪神になってたからかな」
「だとしても、叢影がそれに反応したのは面白いわね。私のこの鉄扇、黒吹子とはどうかしら」
綾乃は懐から鉄線を取り出して広げる。
叢影の様子は……うんともすんとも言わない。煙一つ出ない。
「何も変わらないね」
「……もともと私が一緒に持っていたからかしらね。吉田と桐竹とは、感動の再会だったって訳だし」
なるほど。
「吉田と桐竹は御影綱重って人が持ってたって聞いたけど、綾乃の黒吹子は?」
ツキヒの武器は、御影の人間が代々所持するものだと聞いた。だとすれば、綾乃の黒吹子も……
「これ? 黒吹子はね、ツキヒの武器の製作者……御影ツキヒが使っていた物よ。ツキヒは私の親友」
綾乃は何かを思い出すように言い、優しく微笑んでみせた。
「ツキヒは陰力を使うのが上手だったわ。だから黒吹子や、叢影といった数々の武器を作れた。金属に見えるでしょ? でも金属ではない。ツキヒの影なのよ」
黒吹子の黒い骨も、叢影の刀身も、全て陰力で作られているというのか。しかも、既に亡くなっている人間の。
「だから、あなたにも出来るわ。頑張ってね、線路作り」
死してなお残り続ける陰力で作られた武器……それに比べたら、俺に課せられた仕事は、全く大したことじゃない。それに俺は、ツキヒの残した武器を使う事が出来る。
「特別な武器と言ったら、逢魔のその鎖も相当変わってるよね」
風尾が言う。
「こいつか? そうだな。結構俺様の意のままに操る事が出来る」
逢魔の持つ鎖は、赤く熱したり、分離させたり、宙を浮かせたり。如意棒に引けを取らない高性能ぶりだ。
「羨ましいな。拙僧にもやり方を教えてくれ」
「悪いが俺様自身、どういう仕組みで出来てんのか分からねぇんだよな。この鎖は、俺様の一部って感じでよ。まぁ、天才って奴だな」
逢魔がしたり顔で言うが、弁慶は何かに納得していた。
「なるほど……一心同体か」
何か閃いたのだろうか。

#小説 #キの章

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