影霊 キの章 3

俺は陰力の扱いに関しては全くの出来損ないである事を儀右衛門に説明するが、儀右衛門は特に気落ちしたりする事無く話を続けた。
「もちろん今すぐどうこうしてくれと言っているわけではない。このワシの身体を見たまえ。まずどうにかするべきはワシの身体の方だ」
「うん」
自覚してたんだ。
「時間はたっぷりとある。このぷろじぇくとの方は、ゆっくりと進めていこう」
初瀬号が走る線路のサンプルを貰い、俺はそれを陰力で複製するための模索を始めた。
焦る必要は無いと言われたが、生物以外を形成するのは、てんで駄目だ。
こうなったら、ムカデとか、ミミズとか、それっぽい細長い生物をアレンジした方が早いんじゃないだろうか……と挑戦してみたが、それも難しい。
レールの構造は思っていたより単純である。複雑な生物の構造を、単純化する方が難しかった。
「で、俺様に何かしてもらいたい事はあるか? この鎖を熱するのは簡単だぜ」
「石炭としての仕事は今は無いからな。それじゃあ屋敷が吹き飛んだ時に逃げ出したワシの身体のぱーつやこれくしょんでも探して来て貰おうか」
逢魔と儀右衛門が何か話している。
身体のパーツやコレクションが逃げ出した……?
「逃げたのか? 身体が?」
逢魔も聞き返す。
「ワシは物を自在に操る事が出来るが……その副作用として、長時間操ったものは一定期間付喪神と化してしまうのだ」
その結果、付喪神と化していた物達が、混乱に乗じて逃げ出してしまったと……
「決してワシの事が嫌いだからと逃げ出したわけではないぞ。屋敷が吹き飛んだ時に驚いて逃げ出したのだ」
「それなら儀右衛門のおっさんが呼べば、戻ってくるんじゃねぇの?」
「あの物達は……そこまで素直ではない」
めんどくさいなぁ。
「もしかして、コレクションっていうのは、屋敷の中や、周りに転がっていた物?」
俺は儀右衛門に訊いた。
「そうだ。付喪神化していた物は焼失を免れ、その多くが同時に逃げ出してしまった」
良かった。あのガラクタ達はまだどこかに残っているんだ。
「そうだ、司くん。君にも探して貰いたい物があったんだ。逃げ出した物の中で最も重要な代物……二丁の火縄銃を探し出しては貰えないだろうか」
頼み事ばかりだなこの青狸。
「二丁の火縄銃……って、もしかして吉田と桐竹?」
「おお、そうだ! よく名前を知っていたな」
「匠骨に聞いたからね。御影ツキヒが作ったんでしょ?」
「うむ。吉田と桐竹もさぞ心細いであろう。あの物達を怖がらせずに連れて帰れるのは司くん。君だけだ」
なら自分たちで帰ってこいよと思うが、やはりそこまで素直じゃないらしい。
厄介な仕事を引き受けちゃったなぁ。
レール作りも特に捗らないので、俺はまず、吉田と桐竹を探す事にした。逢魔はその他の物達を探す。

#小説 #キの章

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