影霊 イナノメの章 22

幽吹、銀竹、嵐世の三人が、雪女の精鋭を率いて夜空を飛ぶ。
「日の出が近いわ。夜のうちに終わらせたいわね」
「この三人なら、いつだって余裕でしょ〜」
「一方的に殲滅するだけなら簡単だけど、被害は最小限で終わらせたいのよ。互いにね」
「幽吹……申し訳ありません。巻き込んでしまって……」
「銀竹は悪くないわよ」
「ですが……司くんは、まだ知らないのでは……」
「そうね。でも、あの目と、あの言い方は……何となく気付いてるって感じだった。それに、ああ見えて精神的には強いのよ。ここに来る途中、二人きりになった時……一瞬だけ魅了の術を使ってみたの」
「ええっ、大人気無いですわね。見損ないましたわ。この変態」
「待って、話を最後まで聞いて銀竹」
「それでどうなったの? 襲われた?」
「それがね、司ったら、耐えたのよ。私の魅了の術を」
「へ〜、すごいじゃん司くん。でもそれって、幽吹ちゃんの魅力が足りないってことなんじゃないの?」
「はあ? 魑魅である私に何てこと言うのよ。それに、司は昔から私の事慕ってくれてるし」
「そんな子に魅了の術を使うなんてほんと酷いですわね。ドン引きしました」
「……ちょっと試してみただけだって」
談笑しながらも、常に地上を見下ろす三人。
「あっ……二人共、見つけましたわ」
銀竹の指し示す先には、北海道の大地を行進する軍隊があった。
「……周りに人間の民家は無いみたいね。一気に攻めましょう。ただし、殺しは無しよ」
「え〜、手加減するのめんどくさい」
「ここで派手にやったら、すぐに次の軍が報復に来るでしょうが。考えてモノを喋りなさい」
「またまた〜。一番は、司くんに嫌われたくないからって理由でしょ? 大丈夫だって、司くんなら。一気に引き摺り込んじゃおうよ。妖怪の道に」
「司が標的にされて困るのは、私だけじゃ無いのよ」
「あ、そっか〜。なら、仕方ないね」
「銀竹、雪女達と一緒に大雪を降らせて。視界を奪うわ。嵐世、あんたは大風を」
「わかりましたわ」
「私が先陣を切る。嵐世、大風を起こしたら私に続きなさい」
「は〜い」
幽吹は雲から飛び降り、敵軍目掛けて急降下した。

#小説 #ヨアカシの巻 #イナノメの章

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