影霊 イナノメの章 30

「百鬼夜行は日隠村の外にいる妖怪の連合ですわ。前回のイナノメ軍との戦いでは大いに暗躍しました」
銀竹が誇らしげに語る。彼女もその一員として戦ってきたのだろう。
「つまり……これからの戦いに備えて、その百鬼夜行を復活させるんだね」
「ええ。タムラマロの出兵によって、イナノメ軍が再び動き出した事が明らかとなった今、ワタクシ達も手を打たなくてはなりません。ですわよね? 幽吹」
「そうね」
幽吹が一つ頷いて応えた。
「ということは、幽吹も百鬼夜行の一員なんだ」
「一員どころか……」
「主導者。いわゆるリーダーだよね」
銀竹と嵐世が口を合わせる。
「ええっ、幽吹が?」
幽吹は首を傾げている。「さあ?」とでも言いたげな感じだ。
「もちろん四候の一角を担うワタクシや鬼然の支えあってのものですけれど」
「あれ? 銀竹ちゃん。私は?」
無視する銀竹。炫彦の存在も無視されている。
「ならその百鬼夜行とやらのリーダー様はこれから忙しくなるな。まぁ、頑張れよ」
イナノメ軍との戦いには特に興味を示さない逢魔。適当に激励の言葉をかける。全く気持ちが入っていない。
対する幽吹の反応は……怒るでも、素直に受け止めるでもなかった。
「そう、その百鬼夜行の主導者なんだけど……嵐世。あんたに譲るわ」
幽吹はなんとリーダーの座を嵐世に渡すと言いだしたのだ。
「えええっ!? 私!?」
驚きのあまり飛び退く嵐世。これほど平静を失う彼女の姿は初めて見る。
「あんた、前にリーダーやりたいって言ってたじゃない」
「それは……昔の話じゃん。今はそうでもないかな〜って」
どうせ、幽吹を困らせたいがために言ったんだろう。どうしようもない捻くれ者だ。
「なら銀竹やる?」
嵐世の次は銀竹。
「ええっ……ワタクシは……そりゃあ、嵐世がやるよりはワタクシが、とは思いますが。やはり幽吹が適任かと……それにワタクシ、よく冷えた時期や地域でなければ……」
「あー、もういいわよ。どいつもこいつも……なら、鬼然?」
どうしても幽吹は主導者の座から降りたいらしい。
一体何故だろう。百鬼夜行が村の外の妖怪の連合だから? しかし、それなら嵐世だって幽吹同様、今では村の妖怪だ。
「不動の幽吹だよ。司くん」
壊れたカラクリ人形の修復を氷雨の手を借りて進めていた儀右衛門が、小さく声を発した。
「不動の……?」
「あの妖怪はそう簡単には動かない。君を守るという使命もある今、百鬼夜行のりーだーとして日本各地を駆け回る事など、考えられないのだろう」
「ガラクタ。ペラペラと他人のことを喋らないの」
「はい」
ひとまずこの場の話し合いでは、幽吹がもうしばらく百鬼夜行のリーダーを続けるということで落ち着いた。
しかし近いうち、百鬼夜行の主要なメンバーが一堂に揃った際に、再びこの議題を俎上にあげるつもりのようだ。

#小説 #イナノメの章 #ヨアカシの巻

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