影霊 キの章 5
地上に落ちていると思われる火縄銃を探すため、風尾は低空で飛行する。
「そうだ。鎌鼬の捜索隊を出してたんだけど。やっと見つけたよ」
腕の中に収まる風尾が不意にそんな事を言い出した。
「捜索隊?……もしかして幽吹の?」
「そうそう」
「幽吹の事、探してくれてたんだ」
未だに村に帰ってこない幽吹。どこで何をしてるのやら。そろそろ心配になってきた。
「うん。綾乃も幽吹の居場所は知らないって言ってたしね」
「それで、どこにいたの?」
「北海道の、銀竹が率いる雪女の隠れ里」
北海道。遠いなぁ。
銀竹と共にいるなら心配する必要は無さそうだが、まだ借りを返すために働いているんだろうか。
「事情を聞くにしても、会いに行くのは大変だなぁ。初瀬号を動かせるようになったら、別だけど……でもなぁ」
レールを作るのには時間がかかりそうだし、レールができたとしても、どうやって海を渡ればいいのか……
「帰ってきてもらうために、ぼくが手紙出そうか?」
「ほんと? 何て書くの?」
「それは内緒」
「内緒かぁ」
風尾は文字が書けないため、代わりに綾乃に書いて貰うらしい。
「風尾って、幽吹と仲良いの?」
幽吹のためにここまで色々してくれるとは……
よく喧嘩してるのを目にしていたが、喧嘩するほど仲がいいって奴なんだろうか。
「どうなんだろうね。ぼくもよく分かんないや」
風尾が唸る。
「でも、それなら司だって、幽吹の事どう思ってるの?」
「俺? うーん、昔は意地の悪い剣道の先輩で、変わった人だなぁって思ってたけど……」
「司の家に来てたりしてたんだよね」
「うん。よく知ってるね。特に母さん達がいない時を見計らって。別に他愛も無い話して、時々一緒にゲームするくらいだけど」
幽吹はゲームも強かった。動体視力や読みの上手さが俺とは段違いだ。
あの時はただ暇潰しに来ていただけだと思っていたが……綾乃も言っていたように、タチの悪い霊や妖怪を俺に近付かせないように、見張ってくれていたんだろう。
見る者によっては、幽吹自身も相当タチの悪い妖怪だったのだが。
「良いなぁ。一緒に剣道したり、家で遊んだり。ぼくはそういうのに憧れるよ」
「武術の稽古なんかは、今からでも一緒に出来るけど」
「本格的な剣道がやってみたいんだよね。ほら、かっこいいじゃん」
「まぁ見た目はね。実際は結構臭いとかするし、暑いから大変だけど」
それに、狙いを外されるとめちゃくちゃ痛い。
「妖怪は雑菌を寄せ付けないから、基本的にそういう臭いはしないんだよね。ほら、幽吹はどうだった?」
「そう言われると、あまりしなかったかも」
あまり意識した事は無いが。まず自分の臭いで鼻がいかれてる可能性もある。
「今、人に変化するための修行してるんだ。上手くいったら、剣道とかゲームとかしようね」
快く了承する。おそらく剣道ではボコボコにされそうだが。
俺は本当に武道のセンス、というか身体能力が無い。今持ってる叢影も、刀として働いて貰った覚えが殆ど無い。陰力を発動する手助けをしてくれているだけだ。
これで良いんだろうか、叢影よ。
そう思って腰に下げてある叢影を見ると、鞘から黒い影が、煙のようになって漏れ出していた。
どうした叢影。
俺はこの事態を風尾に伝える。
「多分それ、吉田と桐竹に反応してるんじゃないかな」
風尾が言う、つまりこの辺りに二丁の火縄銃があるのか。