見出し画像

No2『取締役の条件』

1. 日本企業のコーポレート・ガバナンスを考える

樋口 公啓 氏(東京海上火災保険 取締役会長)

会社は、「株主だけ」のものではなく、「株主を含むすべてのステークホルダーズ」のもの。

英国のハンペル委員会の報告も、取締役の役割を「長期にわたって株主の投資価値を高める」というように、株主価値の最大化+長期的な時間軸をおく。短期のキャピタルゲインだけを狙うのではなければ、他のステークホルダーの利益も包含される。

【米国型】OECD(経済協力開発機構) 米国型の取締役会の存在意義
① 取締役会の機能は、経営の監督にあること
② 取締役は、社外が少なくとも半数以上又はほとんどすることが望ましいこと
③ 社外取締役が中心となった、指名、報酬、監督委員会の設置を求めていること
経営トップの執行状況を監督し、企業経営の暴走を防ぎ、いざとなったらCEOの首のすげ替えをすることにある。

重要なのは、その精度なり仕組みをいかに有効に機能させるかである。
社外だからこその「全体(他社・市場から比較)からみた」客観的な評価や視点が大切である。社内で当たり前のことでも、社外取締役から質問をされたから再度その本質的なところから考えてみようという考えにも立てる。

2. 社外取締役がなぜ必要なのか

生田 正治 氏(株式会社商船三井 取締役会長)

米国では、 株式取扱いの70%を機関投資家が占める。その運用する資金の80%-90%は個人から集めたものである。このため、社員は様々な会社の株主でもある。「株主利益の増大を図る」というもの、自分たちの利益を意味するためあまり違和感がない。一方で、日本の個人投資家は少ない割合を占める。米国と日本では株主構成が異なり、コーポレートガバナンスとは、「企業価値の増大」という目的の方が違和感がない。

経営とは、投資家から託された資本を有効に使い、社内の経営資源を効率的に投入してコーポレート・バリューを高めていくこと。 

取締役はひと・もの・金といった「経営資源が最適化」に使われているかを監視し、監督して、客観的に評価する。経営の透明度を高めるために、独立的な立場のものを株主とする。また、社内の人間だけだと議論の出口が代わり映えしない。

アドバイザリーボードもあるが、企業経営の中枢部分の内側に第三者にはいってもらい、直接あらゆるデータへのアクセスを補償し、インディペンデントの立場で経営を監視し、評価してもらう仕組みが必要。

 社外取締役に求められる条件
① 同じビジネスグループや同じ業界ではなく、同業であっても日本ではなく米国の業界からといった具合に、極力違う分野の方。
② その分野で自他ともに認める実績のある方。
③ なれ合いや遠慮をさけるたえ、個人的に親しくない方
社外取締役は経営の一旦を担うわけではない。役割としては、あくまでも投資家が安心して株を買い、個人が株式投資により健全な資産形成ができるよう、中長期的にその会社の企業価値を高めていくことである。

3. CEOの役割

北城 氏(IBM・パシフィックプレジデント)

CEOの個人の資質や能力に異存する経営の仕組みには問題がある。

個人が将来的にも優れているかどうかは保証されるものではない。経営内容を的確に把握し、チェック&バランスを機能させる。そのためには、CEOを日常的には強力に支援しつつも、客観的な視点で監視・監督し、困難な局面にさしかかったら危機的な状況に至る前の早い段階で適切に歯止めをかけるコーポレート・ガバナンスの仕組みを整備していくことが強く求められている。

4. 取締役改革と取締役の育成

鈴木 哲夫 氏(HOYA株式会社)

コーポレート・ガバナンスの本来の目的は、経営のパフォーマンスを長け、株主価値を増大させることにある。


そのために、どこに重点を置くか、何を重視するかは、その会社の置かれた状況、経営の規模、経営者の考え方等などによってそれぞれ異なり、打つ手もおのずと違ってくる。

「規模の拡大」から「株主価値の増大」へと転換せよ


戦前の日本の資本主義は、資本と経営の分離がさほど進んでおらず、ガバナンスはあまり問題にならなかった。戦後復興でも、重要産業が決められ、傾斜生産方式でそこに重点的に資源も資金も割り当てた。メインバンク制も、戦時中の金融統制のもので、特定の銀行が事業会社の資金供給源に指定された。
統制経済のもとで、経営者支配、株主軽視の経営が続いた。売上が拡大すれば、利益も増大し、売上拡大主義を追求し、ひたすら規模の拡大を目指した。KPI(経営指標)としても、経常利益が重視されていた。

 CEOに求められる能力は、2つ。
① 会社の経営戦略を構築する能力
② 立案した戦略を達成する能力

優れた戦略ほど多くの困難がともなう(大きな改革)ため、現場は抵抗を示す。それを理解させ、高いモチベーションをもって実行させていく力がどれだけあるか。CEO自身がいくら優秀でも、それだけでは仕事はうまくいかない。自分のマネジメントチームにどれだけ有能な人材を集めておくことができるかどうか。ここでCEOの力量が問われる。

 企業価値を継続的に高めていくた目には、CEOは資本コストを上回るリターンが期待できる新たな投資機会を見つけて、それを実現していかなければならない。

5. グローバルコーポレートガバナンス 

井出 伸之 氏 ソニー株式会社 

ソニーでは、取締役会をグループ全体の方針決定とグループ企業の監督という「グループ本社の最高経営機関」として機能。

・コーポレートガバナンスに グローバルスタンダードはない。
・ その国に特徴的にみられるコーポレートガバナンスの仕組みは、その国の主本主義の発達の歴史を反映し、法制度や会社の在り方と密接な関係にあり、それぞれに今なお進化を続けている。
・ どこまで業務執行を監督し、どこまで地域の子会社に権限を委譲していくか。法律でコントロールするのが難しい以上、結局独自にルールを考え、株主に伝えていかなければならない。
・ 企業の置かれた環境や状況、公開か非公開か、業種業態、売上の地域別セグメント、株主構成、経営者のビジョンや企業風土文化、等の違いにより、100の会社があれば100とおりのコーポレートガバナンスがある。
・ 企業経営に今求められているのは「統合」と「分極」のバランスを取ることである。業務のオペレーションはできるだけ分極していくが、その一方で、ガバナンスは統合を目指さなければならない。


いいなと思ったら応援しよう!