研究室の選び方・研究室訪問で見ること聞くこと
私がかつて大学生だった頃、研究室選びは「一生を決める一大イベント」と言われました。
そんな大げさな、と言われるかもしれませんが、振り返ってみると案外その通りだった気がします。入った研究室のテーマが一生の仕事になる場合もあるし、同じ研究室の先輩後輩で結婚した例も枚挙にいとまがありません。外部の大学院への進学だって研究室の先生から紹介してもらうことも多いので、最初にどの先生につくかで行先はずいぶん変わります。
そうはいってもどうやって研究室を決めたらいいのか。
一番わかりやすいのは「テーマ」でしょう。研究室それぞれに大きなテーマがある(はずな)ので、HPの研究室紹介のページを読んだり、あるいは直接先生から聞いたりして「面白そうだな」と思えたら候補に入れる。全部は理解できなくても「面白そう」という自分の感覚を大事にします。「かっこよさそう」は似て非なるものなので、「なんかわかんないけどかっこよさそう」はダメ。
研究室の雰囲気というのもありますが、学生が入れ替わると雰囲気は変わるので、これは参考程度ですね。もっとも、研究室を主宰する先生がワンマンだとか居丈高で(この時代にいるのかな)、それで研究室全体が委縮した雰囲気だったらやめたほうがいいかも(むしろそういうのが好きな人ならとめませんが)。
卒業研究くらいだとあまり感じないのですが、研究者になりたいと意識している場合は別の大事なポイントもあります。研究を進めていく過程で、Aがわかったとします。Aの次にBに行くか、あるいはA'に行くかはもう研究者の個性ですよね。ある意味「研究哲学」とも言えるのですが、この研究哲学が自分と異なっていると、研究室ライフは結構シンドイです。私自身が博士課程で楽しく研究が出来たのは、指導教員と研究哲学が近く、「次はこうしたい」というと「いいんじゃない」と好きに泳がせてくれたからだと思っています。
突き詰めると結局は教員との「相性」だと思います。お見合いと同じで、どんなに条件がよくても一緒にいて苦痛だったらダメでしょう。授業では楽しくて話の面白い先生だと思っていたのに、研究室に入ってみたら案外ツマラナイ、というケースはよく聞きます(もちろん逆もあります。つまらない授業をする先生だと思っていたけど研究室は楽しいとかね)。
そう考えると、「合わない」とお互いが感じているのであれば、研究室を変えるのもアリだと私は思います。研究室に行くのが苦痛で「自分は研究なんて向いてないんだ」と退学まで思い詰めるくらいなら、「たまたまA先生と相性が合わなかっただけ」と考えて別のB先生の研究室に行くのは建設的撤退だと思うのです。
もっとも、大学院生というものは基本的に悩み多きもので、「自分がやっている研究に価値があるのか」「この研究をやっている自分に価値はあるのか」と悶々とするのがむしろデフォルト。なので、この手の悩みは研究室を変えても変えてもずっとついて回ります。
隣の研究室の同級生は毎日楽しそうだし、順調に成果も出していていいなあ。と思うことは誰だってあります。そういうときに「隣の研究室の先生の方が優しくて面倒見もいいからだ」と思うことだってあるかもしれません。でもこれって結局「隣の芝は青い」なので、隣の研究室の人から見たらソッチはいいなあと思われていたりもします。
実際、「この研究室は自分には合わない」と啖呵を切って違うところに行ったら、そっちも合わなかった。だからまた別のところに行く、という学生はいるんですよ(少数ではありますが)。こういうのを業界では「山のあなた症候群」といいます。
研究室との相性の良し悪しと、山のあなた症候群とは似ているようですが、別物です。
研究室選びで迷う学生には、まずは先生としっかり話す機会を設けてもらって、直接研究について聞きましょう。研究について聞きたいと言ってくる学生は基本的にどの先生も喜んで迎えてくれるはずです。向学心のある学生をむげにするような先生であれば、研究室に入ってもろくに話してくれないでしょうから対象から外しましょう。また研究についてどんな些細なことでもいいので質問してみて、どんな答えが返ってくるかも観察しましょう。「そんな基本的なこともわからないのか」と鼻で笑ってくる先生だったら、研究室に入っても多分苦労します。先生の説明が難しすぎて研究内容について質問できないなら「どうして先生はこのテーマを選んだんですか」という質問でもOKです。
とはいえ大学の先生はそこそこ多忙なので、長い時間を拘束すると「コイツは話が長い」と敬遠されてしまいかもしれません。なので、15分程度を目安にして、話が途切れたらパッと「とても参考になりました。ありがとうございました。」ときちんとお礼をして退去するとスマートな印象を残せると思います。
もっとも、研究室について本気でいろいろ聞きたかったら、その研究室に所属している大学院生に聞く、それも先生のいないところで、というのが、一番正確かもね…。