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ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_1
これはある意味神話であり、寓話でもある。
何かを示唆し、教訓を与える類いの話かもしれないし、
或は飲み会の席で誰かが酔っぱらって語るような取るに足らない物語かもしれない。
物語とは、人間がカオスな宇宙から見いだした空想の流れである。
宇宙にルールは無い。
しかし、文明にはある。
知っておかなければならないのは、それだけだ。
ボクは今まさに、死と言うものに直面していた。
目の前には尖った頭を持ち、身体中を黒光りさせる毛むくじゃらの見たことも無い怪物が眼前に迫っている。
見慣れた大学までの道。
いつもと変わらず、昼過ぎに目覚め、4限に間に合うよう家を出たはずなのに、どうしてこんなことに?
怪物は道ばたに突っ立っている「一時停止」の標識を薙ぎ払い、ボクに迫って来る。
このままだと、10秒立たないうちに、ボクの人生は終わりを告げる。
非常に残念である。
生まれて20年足らずの短い記憶ではあるが、走馬灯が流れそうな気配を感じたその瞬間、怪物がまっ二つに切り裂かれた。
切り離された切断面から、どす黒い石油のような鮮血が飛び散り、付近を濡らす。
ボクはあっけに取られ、間抜け面をさらした。
どす黒い鮮血の噴水の中に立っていたのは、金髪の女性である。
手には蛍光灯の4000倍はあろうかという光りを放つ、長い棒を持っている。
蛍光灯の4000倍という比喩はあくまでボク個人の感想であることを補足しておく。残念ながら、お察しの通り、ボクのボキャブラリーは貧困である。
それが剣であることを認識できたのは、ボクが呼吸を止めていることを自覚し、息を吐いた瞬間だった。
女性はボクを振り返る。
ボクはその女性の顔を見つめた。
口元には鎧のように固そうなマスクをはめている。
顔の全ては見えなかったが、ボクはその目を、見たことがある気がした。
どこだったろう?
彼女はボクの身体に異常がないのを確認するように見回した後、跳躍し、飛び去った。
ボクはただ、その場に立ち尽くす。
時間にして約数分、4限にはまだギリギリ間に合う時間。
1月下旬、寒い日のことだった。
ちなみにボクが彼女と再会を果たすのは、その数日後、飲み会の席でのことである。