ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_20
「どういたしまして?」
ボクは答えた。
他に何を言えば良いかも分からず、とりあえず口から出て来た常套句である。
「尾田君、困ったことが合ったら、何でも言いなさいね」
「とりあえず、入院費……」
「寒くなって来たわね」
壇ノ浦さんは両手で自分の肩を抱いた。
分かりやすく話を逸らす人である。
「私も前回の戦いで結構使っちゃったし」
結構とはどのくらいだろう。
「しかも、Evil Demandをまた逃してしまった……」
暗い顔をする壇ノ浦さん。
「出たら、バイト、増やします」
「尾田君、貯金はあるの?」
「いえ、ないですよ。毎月家計は火の車で」
「これから毎月、デイビットから分割で借金の返済催促が来るわ」
「やべーっすよね」
「月50万の30年ローンよ」
「大豪邸が買える!」
「もし支払いが滞れば、担保は尾田君の命……」
「えぐい商売すわ」
「いい? 尾田君、何としてでもお金を稼ぐの。どんな手を使ってでも」
「どんな手を使ってでも……」
「だって、私は尾田君に生きていて欲しいから……」
壇ノ浦さんのまつげが濡れていることに気付いた。迫り来る夜に光る一番星のようである。ロマンチックである。
「私も、協力するから」
「ありがとうございます。何か、いいアイデアありますか?」
「んー、いくつかないこともないけど」
「ボク、やりますよ。とっととこんな借金返して、自由になりますわ」
「また、今度話すね。ほら、風邪を引くかもしれないから、病室に戻るわよ」
「分かりました」
壇ノ浦さんはボクの車椅子を押して屋上を後にする。
血のように赤い夕日が、夜の闇に塗りつぶされて行く。
ボクはとにかく複雑な気持ちだ。
壇ノ浦さんの命の値段が月1で50万×30年ローン=1億8000万(税別)だったという事実に。
決して安くはない。だが、命と比べると重すぎることはない気がした。
とにかく、この世は不条理である。
だけど、ボクは稼ぐ。