ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_23
「大学を辞めるの?」
壇ノ浦さんは真顔でボクを見て尋ねた。
「はい、仕事に専念しないと」
「その生活を返済が終わるまで続けるつもり?」
「ええ、そうなります」
壇ノ浦さんは目を伏せて、ため息をついた。
「尾田君……」
おもむろに何かを言いそうな気配だ。
「ご両親は?」
「親は小さいころ事故で死んでます。親戚の家で育てられたんですが、そことは仲悪くて、お金は払ってくれないと思います。両親の遺産はボクの養育費で無くなったそうです」
「そうだったのね……。御愁傷様」
「だから、自力で何とかしないと」
残念ながら、ボクを助けるためにお金を払ってくれそうな親戚や知り合いはいないのだ。
「私の父が大阪で不動産会社をやってるんだけど、そこで働いてみる?」
「え、社長さんすか?」
「ええ、一応、社長」
壇ノ浦さんは目を背けたまま言った。何か、わだかまりを感じる。
「私が父に頼んで、そこで働かせてもらえば、月給のほか、出来高も貰えるから、うまくやれば50万くらい」
「営業ですか? 接客業以外やったことないすわ。いきなり稼げるものでもないですよね」
「そうね……。でも、尾田君が、少しでもあなたらしく生きていけた方が、いいと思って」
「ボクらしく?」
「あなた、このままだとほぼ定年まで時給で雇われ続けるのよ? 働いてる間はただマニュアルを読み上げてるだけ。ただのスピーカーよ」
「うわー、卒業後フリーターでぷらぷらしようと思ってたボクには耳が痛い」
「あと体を壊したらどうするつもり? 入院したら即、キャッシュアウトで終わりなのよ」
「確かに……」
「若いうちはいいかもしれないけど、年をとったらどうするの?」
確かに、体を壊す可能性は十分ある。
「おばあちゃんみたいなこと言いますね」
「そりゃ、言うわよ。心配だから」
「ありがとうございます」
なら、金をくれ。とは言わないが。
壇ノ浦さん、やや沈黙。その後、ぽつりと言った。
「……あと、尾田君が忙しいと私も寂しいし」
「おっと」
デレたのかこの女。デレたのか?
「また、映画見に行こうよ」
「デレたー!」
頰を叩かれた。
「何なのよ。ふざけないでよ。あなたは命の恩人だから、心配してあげてるんじゃないの」
「壇ノ浦さんって、可愛いっすね」
「はぁ!? 何が!?」
壇ノ浦さんは肌が白い。だから血の巡りがよく分かる。真っ赤である。分かりやすい。
結局、世の中ラノベ程度の恋愛能力があれば渡っていけるのかもしれない。
「壇ちゃん」
「壇ちゃん言うな」
「下の名前なんでしたっけ?」
「言わない」
だだっこみたいになっている。
「壇ちゃん」
「敬語を使いなさい、敬語を。私は先輩よ?」
「壇さん」
「……」
「ありがとうございます」
「尾田君さ、ありがとうとか言っておけば、いい感じに締めれるとか思ってないかしら?」
痛いところをつかれた。
そういえば折に触れて、ボクはありがとう、だけでいろいろと乗り切ってきた気がする。
お礼を言うのはいいことなのだが、今の壇ノ浦さんには通用しないようだった。
「話を戻しますけど」
「切り替え早いわね」
「壇ノ浦さんのお父さんの件、詳しく教えてください」
「ええ、求人情報はまた追って」
「そういうことじゃなく、壇ノ浦さん、さっき何か隠してるみたいだったので」
「……そうね」
「お父さんと何かあったんですか?」
「話すと長くなるわよ」
うわー、下手な前置き来たー。
映画とか小説でよくあるヤツ!
「なるべく短めでお願いします」
壇ノ浦さんはじとっとした目でボクを睨んだ。