ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_18
……………………ボクは死んだ。
さようなら、この世。
人は死ぬとどこへ行くのだろう。
あの世なんて本当にあるのだろうか。
あるとすれば、天国か地獄、ボクはどちらに行くのだろう。
今日、大勢の罪のない人を襲った災厄。
犠牲者達はどこに行くのだろう。
お墓の中?
いや、それなら千の風になりたい。
風がボクの頬を撫でるのを感じる。
ボクは風になりつつあるのか?
ぼんやりとした温かい光りがボクを包む。
ここは天国か?
ちょっと申し訳ない気分になる。
囲碁部のみんなを助けることも出来ず、その一週間後、何となく槇村さんとイチャイチャし、その足で壇ノ浦さんと映画を見て戦いへと仕向けるという厚顔無恥にも程がある所業をしてきたというのに。
そんなボクにも、天国へ行く資格があるなんて、神様はきっと想像よりもずっと寛大なんだろう。もしくは、雑か。
と、再び風がボクの頬を撫でた。
ボクはうっすらとまぶたを開く。
白いレースに、包み込まれたような世界。
というより、これは本当に白いレースだ。
遮光カーテンである。
むむむ。
窓の外に並木と電線が見える。
むむむ。
天国って、意外とこの世と変わらない。
というより、この世そのものである。
というより、この世である。
ボクは、この世にいる。
ということは、生きている。
「あれ、ここ、どこ?」
「……ここは県立病院の204号室よ」
すごく、懐かしく、そして聞きたかった声がした。
「……壇ノ浦さん」
声の方向に顔を向ける。
壇ノ浦さんが傍らの椅子に座っていた。
「おはようございます」
「もう夕方よ」
「こんばんは」
「こんばんは」
壇ノ浦さんは、生きていた。
その実感を得るため、ボクは手を伸ばした。
頬に手を伸ばしたはずだったが、肩に痛みが走り、ボクの手は壇ノ浦さんの胸を触っていたのだった。
あんだけ頑張ったのだから、このくらいのラッキースケベは貰ってもバチはあたらないであろう。
神様イエーイ。
「B」
ビンタされた。
……………………ボクは死んだ。
嘘である。
「Cよ」
「……生きてる」
壇ノ浦さんはボクの目を真っすぐ見据える。
「尾田くんも」
「生きてるんすね、ボクも」
「3日間、昏睡状態だったけど」
身体中がずきずきする。
「ボクの怪我、どんな感じすか」
「命に別状はないけど、大部しんどい感じよ」
ざっくり!
何も分からん!
生きてるからまあいいや!
「無事、だったんですね」
壇ノ浦さんは目を逸らす。
「ええ」
「良かった……」
「ねえ、どうして……」
沈黙。
気になる。
「どうして、何なんですか?」
「どうして、助けてくれたの?」
理由なんて、あるのか?
「それ、答えなきゃいけないんすか?」
「別に……」
「ボクも生きてたんで、万々歳すわ」
「本当に、そう?」
「え、何がスか?」
「あなた、私を助ける為にいくら使ったか……」
その話がまだだった。
デイビットと金額の話をしていない。
その前に気絶してしまったから。
命を救うにはそれなりの代償がいる。
壇ノ浦さんの命を救う値段は幾らだったのだろう。
急にトリハダが立って来た。
あー、コワ。
「いくらすか?」
壇ノ浦さんはポケットから折り畳まれた紙切れを取り出した。
きっと、デイビットからの請求書だろう。
そこにきっと、値段が描いてある。
壇ノ浦さんの命を救った値段が。
紙切れを受け取り、ボクは意を決してそれを開いた。