ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_13

劇場版ドラえもんは、まあまあ面白かった。

大した感想でもないが。

壇ノ浦さんはずっと黙ったまま鑑賞している。

やがて映画が終わり、劇場が明るくなる。

「さて、帰りましょうか」

壇ノ浦さんは遠い目をしている。

「何、浸ってるんですか?」

ややあって壇ノ浦さんは我に返ったようだった。

「いや、なんか平和だなーと思って」

「平和、ですね」

含みのある言葉だ。

まだ先日のあの怪物がこの街のどこかに潜んでいるかもしれないというのに。

今、この瞬間、新たな犠牲者が生まれているかもしれないというのに。

「この前命を助けてあげた分は、今日でチャラにしてあげるわ」

「えっ、そんなつもりで来てたんですか? てか、安い!」

「楽しかったし」

壇ノ浦さんの表情からは真意は読み取れない。

だが、恐らく本心に近いのだろう。

「楽しかった、ですね」

やや、沈黙。

「帰るわ」

「送りますよ」

「ありがとう、けどいいわ」

壇ノ浦さんは何かを隠そうとしているように感じた。

それか、ボクが送り狼になる危険性を察知してのことかもしれない。

「飯でも?」

「遠慮しとく」

つれない女である。

ボクは、謎の虚無感とともに劇場を出たのだった。

それでも、今日はいい日のはずだ。

はずだった。

劇場の外の電光掲示板に「不明生物、都内に出現。死傷者多数」という文字を見つけるまでは。

「不明生物?」

シン・ゴジラ、ではないだろう。

「今、暴れてるんですかね?」

ボクは隣りにいた壇ノ浦さんに何となく話を振る。

壇ノ浦さんの表情は固かった。

「行くべきだと思う?」

「それは壇ノ浦さんが決めることですよね?」

「今月、結構厳しいのよね」

恐らく、変身やその他戦闘にかかる経費のことを言っているのだろう。

「例えばですが、ボクが立て替えるって言ったら?」

何でボクはそんなことを言ってしまったのか。

「立て替え? 奢りじゃなくて?」

いやー、ボクも10万以上の出費はキツい……。しかし。

「奢ります……」

「なら、行こうかな」

「えっ?」

「奴を倒しに」

「何で、急に?」

「別に、気分よ」

「そうですか」

「奢りだしね」

「はい、出しますよ。ただ、10万以下で抑えてもらえると……」

「こっちは命掛かってるのよ。そんな約束出来ないわ」

「ですよねー」

「死ぬ前に最期に見た映画がドラえもんなら、まあ悪い人生じゃないとは思う」

重いことを言う。

「そういうもんですか?」

「そういうもんよ。一緒に来てくれる?」

「ボク、戦えないすけど」

「立て替えのためにいて」

「はいよー」

そうして、壇ノ浦さんとボクは怪物との戦いに向かうことになったのだ。

ボクの残高は13万6,430円。

かなり心もとない。

が、しかし、それで人を救えると思えば安いものだ。

映画を2本見た後の戦い。

今日はいろんな意味でドラマチックな日になりそうである。

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