ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_19
ボクは壇ノ浦さんの命の代償を見た。
その値段を。
暗転。
それから数十分後、ボクは病院の屋上で黄昏れていた。
怪我が酷いボクは立つことさえままならなかったので、壇ノ浦さんに車椅子を押してもらっている形である。
夕焼けによって、町並みが紅に染められている。
ボクと壇ノ浦さんは沈んでいく夕日を眺めている。
この世界は途方もない。
途方もないような辛いこともあり、こんな和やかな永遠とも思える平穏さがあり、どうしようもないほど不条理なことがある。
不条理は宇宙そのものだ。
宇宙は不条理そのものだ。
「尾田君」
「何すか」
「ごめんね」
「何がすか」
「私を助けたせいで」
「……何でなんすかね」
「何が?」
「いろいろと」
どうして、壇ノ浦さんを助けたんだろう。
どうして、壇ノ浦さんは申し訳なさそうなんだろう。
どうして、ボクは手放しで喜べないんだろう。
お金が絡んでるから?
「壇ノ浦さん」
「……何?」
「映画、一緒に観れて楽しかったです。ボクは」
だから何だというのだろう。楽しかったから、ボクは壇ノ浦さんを助けたとでも自己完結したいのか。
「そう……。私も、楽しかったわ」
「大体、そもそも壇ノ浦さんはボクを2回も助けてくれてるわけですし、ボクが壇ノ浦さんを助けるのは普通のことですよ」
「普通のことかしら」
「普通、です」
普通って何だ。自分で言っておきながら、普通の定義を誰か教えて欲しい。
「普通、なのね」
さらさらとした壇ノ浦さんの金髪も赤く染まっている。
「いや、普通じゃないっす」
「どっちよ」
「……ボクは、さっきから何が言いたいんですかね」
「そんなこと、私に訊かないでよ」
宵闇が、背中に迫っている。
夕日はもうじきに沈む。
その前にボクは何か伝えたいことがあったはずだ。
「壇ノ浦さん、とりあえず、生きてて良かったです。こうやって話せて、すげー嬉しいっす」
「尾田君」
「……はい」
「ありがとう」
その一言が、全ての答えのような気がした。