ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜36
「私がこの引き金を引けば、雪道さんの命は終わりです」
槇村さんは浮かべた微笑を一ミリも動かさずに宣告する。
「この前命の危機に陥ったばっかりなのに、スパンが短すぎる!」
「壇ノ浦さんを助けようとしたんですよね? 見てましたよー」
「え、何でそれを……」
「ばきゅーん!」
思わず身を強張らせる。
「大丈夫です。まだ撃ちません」
できれば一生撃たないで欲しいのだが。
「雪道さんの絶体絶命の危機を救ったのは、私ですよ?」
そういえば確かにあの時、Evil Demandの腕を撃ち落とし、ボクらを援護してくれていた人がいた。
「……槇村さんも、K.A.SHAだったの?」
「ええ」
あっさり認めた。
K.A.SHAって思ったより身近にいるものである。
「テレビを見てたら、雪道さんと壇ノ浦さんがあの騒動の中にいるのを見かけて、様子を見に行ったんですよ。そしたら雪道さんが壇ノ浦さんのためにヒーローしちゃってて、死にそうになってたんで助けてあげたんです」
「その時、助けてくれたのに、何で今はボクに銃を突きつけてるわけ?」
「何ででしょうか?」
質問に質問で返して来る。面倒である。
が、ボクにそんなことを言っている余裕はない。
「何か、ボクに怒ってる?」
「ええ、もちろん」
「何が」
「浮気する人なんて、大嫌いです」
「う、浮気って」
「雪道さんは私のものですから」
「違うよ!」
「だって映画館でキスしたじゃないですか。その後別の女とデート行くなんてサイテー」
槇村さんの口端が歪んだ。
「仕事中だから、こういうのは」
「私と仕事、どっちが大事なんですか?」
「ああ、もう!」
「雪道さんが私のものになってくれるって誓うまで、逃がしませんよ」
無責任な行動はこうやって跳ね返って来るのだ。
しかしボクには恋愛ごときに時間を費やしている暇などないのだ!
なぜなら、命を賭けた支払いの期限が迫っているから!
仕事を邪魔し、面倒くさく人の時間を搾取するような女とは、今は付き合えない!
しかし、今は今で命の危機にさらされている。
どうする!どうするボク!?