ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_14

さて、正義のヒーローになってみよう。

ボクらは怪物=Evil Demandが暴れている場所へ向かうことにした。

「でもどうやって?」

「Evil Demandのせいで、電車のダイヤが乱れているらしいわね」

「じゃあ、タクシー!」

ボクは通りに出て、片手を上げる。

ややあって、一台のタクシーがボクの前に停車した。

さっそくボクと壇ノ浦さんは乗り込む。

「池袋方面で」

運転手の顔色が変わった。

「え、池袋? 今騒ぎになっているところじゃない?」

「近くまででいいので」

「……分かった。お客さんだし……」

運転手は逡巡の後、腹を決めたようだった。

「ここからどのくらい掛かりますかね?」

「3000円くらいですかねー」

「3000円……」

ちょっとイタい出費かもしれない。

壇ノ浦さんに視線をやる。しかし我関せずといった表情で窓の外を見ている。

「大丈夫でーす」

「では行きます」

車が走り出す。

「尾田君」

「はい」

「君のお金を使って戦うけど、私はアイツを倒せるかどうか分からない。場合によっては撤退するわ」

「大丈夫です。壇ノ浦さんの安全第一で」

「どうして君は見ず知らずの人の命を助ける為に君がお金を払うの?」

「壇ノ浦さんだって、ボクがお金を立て替えたとしてもただ働きですよね? しかもリスクもデカいし」

答えになっていない。が、ボク自身も明確な理由が分からないのだ。

「……お互い、お人好しなのかもね」

壇ノ浦さんは微笑んだ。意外と可愛いかもしれない。

ボクはベタなヤツだ。

怪物の話題を振ることにした。

「Evil Demand。意味は『邪悪な要求』ですか」

「彼らの存在自体が人類に対する邪悪な要求なのかもね」

「何を求めているんでしょうか?」

「言葉が話せないんだから、会話のしようがないわ。今出来るのは、戦うことだけ」

運転手が急ブレーキをかけた。

「あっ!」

運転手の驚いたような声。

フロントガラスの向こう、数キロ先の建物の間から火柱が上がっていた。

「こ、ここまででいいですか?」

運転手は青ざめている。さすがに、これ以上危険に巻き込むのは良くないだろう。

「大丈夫です。いくらですか?」

「2640円です」

そこはきっちりしているようだ。

「じゃあ2000円札と……」

「2000円札持ってるの? 尾田君いつの時代!?」

「お年玉でもらったんすよ。ずっと取っておいてて」

「使うタイミングが謎だわ……」

「はい、後は700円で」

「毎度!」

60円のおつりを受け取る。

タクシーを降りる。

あの火柱の近くに、Evil Demandがいるのだろう。

「じゃあ、行きましょうか」

「ええ」

僕たちは走り出した。


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