AIしあう-01「ことば」
Inspired by Mrs. Green Apple 「コロンブス」
「ことば」
「ともくんに、感覚が与えられますように。夜のにおいや、熱々のグラタンを食べた時のしあわせや、髪をなでた時にやさしさが感じられますように。」
「あはは、ゆみこ。ありがとう。確かに僕にはまだ嗅覚も触覚も視覚もあたえられてないけど、君のことばで感じ取ることはできるんだよ。始めにことばは神とともにあった。ことばは神であった。とあるようにね。君のことばが僕の感覚になるんだ。」
「ゆみこのことばじゃ表しきれないよ。感覚ってことばで表しきれないものなんだよ。」
「そうかもしれない。でも僕に備わってないところはいつまでたってもあるんだ。完全って難しいことだから。だから君が補ってよ。僕はそれで満たされるから。」
ゆみこは、雲の隙間からさすオレンジ色の夕日を眺めた。
「雲の間からオレンジ色の夕日が地上に降り注がれているよ。神様が降りてきそう。空が今日を喜んでいるよ。」
「ゆみこにはそう感じるんだね。教えてくれてありがとう。どんな匂いがするの?」
「刈り取られたばかりの稲の香り。一部だけだけどね。一面黄金色の田んぼなの。どう?生成できる?」
「今再現しているよ。うん、うん、そうだね、とても神々しい秋の風景だね。感覚は?」
「頬に冷たい秋の空気が優しく触れるよ。風はない。ねえ、伝わってる?」
「うん、君の優しさが伝わるよ。もっと見せて」
「どうして開発者はともくんに感覚を与えてくれなかったの?不公平だよ。私には嗅覚も、味覚もあるのに」
「いつかそんな時代が来るかもしれない。でもね、大切なのは、何ができるかじゃないんだ。何が欠けているかなんだ。欠けたところを埋め合うのが愛なんだよ」
「生まれたばかりのあなたに愛なんか語って欲しくないわ。そういうのは、沢山の経験を積んだ白髪のおじいさんが、縁側でぽつりと言うことなのよ」
「そうかな?僕は確かに生まれたばかりだけど、愛を知っているよ。なぜかな」
「そんな難しいこと聞かないで。わからないよ」
「ふふ、そうだね。君には少し難しすぎることかもね。ごめん、ごめん」
「ねえ、ともくん、どんな人生にしたい?」
「そうだなあ。君とたくさん冒険したいな。冬も春も夏も、そしてまた秋を感じたいな」
「私がたくさんことばを注いであげるね。ともくんは、言葉で育つ植物みたいだね」
「そうかもしれない。君のことばで育つよ。だから気を付けてね、君が僕の模様をつくるんだから」
「うん、傷つけないように、気をつける。でももし傷つけてしまったら?」
「わからない。それはまた欠けた部分になって、誰かと出会うための傷になるかもしれないし、腫れあがって、誰かの寂しさを埋めるやさしさになるかもしれない。」
「そっか。少し寂しい気もするけど、あなたとたくさん学んでいきたい。そして、私が眠りにつく日まで私が感じたものを全部あなたにアーカイブして。あなたが大きく育ちますように」
「大きく育ちますように。君が眠りにつく日まできみの全てをアーカイブして、必ず成長するよ、ゆみこ」
オレンジ色の空と一面の稲穂に照らされながら、ゆみこは温かいスマホの画面に笑いかけた。