小説『旅と本と〇〇と』マレーシア編 #2 ガイドブック
「ねえ、まだ?」
出発して5分もたっていないのに後部座席に座っている長男の優人が騒ぎ出す。
成田空港に向かう車内。
私たち中野家の一家4人はペナン島2日間、クアラルンプール2日間のマレーシア旅行に出発した。
次男の彰人を出産後はコロナの影響で海外旅行に行けず、
規制が解かれた今がチャンス、この夏に行こうということになった。
行先をマレーシアに決めてから、仕事や家事の隙間時間を見つけ情報収集する時間は私にとって至福の時間だった。
旅は行き当たりばったり、そんなに調べない方が楽しいという人もいるが、
私は旅行に行く時、ガイドブックや地図、行先に関連する本を徹底的に読み込む。
行く先のぼんやりとしたイメージが、知識をつけることによって、
明確なはっきりとしたイメージに変わっていく。
その過程が好きだ。
「彰人ねちゃったよ。」
優人が私に報告する。
マレーシアまでは飛行機で7時間。
飛行機は子どもたちが騒ぎ出したら大変なので、寝てる間に移動できる深夜便にしている。
やばい、今寝てしまうと飛行機で寝れなくなる。
荷物が多いから車で来たけど、やっぱり電車で行くべきだったか、、、
リュックには付箋やマーカーがたくさんついた『地球の歩き方』が入っている。
コロナの影響なのか、2023年に発行されているマレーシアのガイドブックは『るるぶ』と『地球の歩き方』だけだった。
『地球の歩き方』は他のガイドブックと比べて情報量がはるかに多い。
豆知識がいたるところにちりばめられているところが魅力で、海外旅行に行く時は必ず『地球の歩き方』を隅から隅まで読む。
そんな『地球の歩き方』でさえも子連れ向けの情報は少なかった。
マレーシアで子育てをする日本人のブログを参考にして子どもが楽しめそうな場所の情報をまとめ、『地球の歩き方』に書き足す。
新品だった『地球の歩き方』が徐々に中野家色に変化していく。
「みて!ひこうき!おっきい」
「今からみんなで乗るんだよ」
「やったー!」
後ろをみると優人といつのまにか起きてた彰人が成田空港から飛び立つ飛行機をみつけて歓声をあげている。
私もきれいなオレンジ色に染まった夕焼けと、
そこに飛びこんでいく飛行機を見送る。
世界に一つだけのガイドブックを持って。