夢カゲロウと戯れ、舟唄に酔う。
珍しく朝から凍える様な寒さで、案の定、帰り道は雪になった。
ふ〜っ、寒さに思わず息を吐く。
吐き出した息が面白い様に白く環になって目の前に広がる。
ザクッ、ザクッ、ザクッと歩を進めるが、いつもより家路が遠い。
早く暖かな部屋に逃げ込みたい。
どうやら、雪は本降りだ。
ザクッ、ザクッとなおも歩を進める。
ようやく辿り着けば、そこは寒い部屋、吐く息が白い。
灯りをともすと、早速ストーブに薪を焚べ部屋を暖める。
悴んだ手を必死に動かし、今宵のうたげの準備に取り掛かる。
薬缶に水を張り、沸き上がるのを待つ。
錫の徳利には、いつも通り辛口純米酒、今日は宮城の酒「墨廼江」を並々と注ぐ。
ちくわ、大葉、貝割れ大根に包丁を入れ、体裁よく刺身皿に盛る。
そうこうしていたら、薬缶の湯が沸いた。
錫の徳利を沈め、燗酒が出来るのを待とう。
凍てついたカラダを溶かすには何より熱燗だ。
グラグラと薬缶の湯が沸き立ち、錫の徳利がゆらゆらと揺れている。
もう、良いだろう。
徳利を薬缶から引き上げる。
大きめのお猪口に熱燗を注ぎ、すっと一口ふくむ。
五臓六腑に染み渡るとは、良く言ったものだ。
くうっとお腹から熱くなり、じわじわと全身に広がっていく。
アテのちくわに茎入り山葵をつけ、大葉と貝割れを盛り、口に運ぶ。
これで生き返った。
窓の外は一面の白い世界。
それでは、雪見酒とシャレ込もうじゃないか!
徳利の酒もわけなく空いてしまった。
カラダも温まったところで、次は山形の「上喜元 古酒」を常温でいただくとしよう。
ポンと勢いよく栓を開け、トクトクとワイングラスに注ぐ。
少し黄味がかった液が灯りに触れ、尚更、美味しそうな姿を醸し出す。
さあ、こんな夜は、八代亜紀の「舟唄」を流して心も温まろう。
おやおや、テレビを点けたまま、すっかり寝込んでしまったようだ。
雪も酒も、皆、幻、夢陽炎だったんだ。
夢にしては酒と肴が美味そうだったな。
窓の外に目を向けると、なんと朧月の夜だ。
テレビの向こうでは、八代亜紀が寂しげに唸っている。
しみじみ呑めば、しみじみとぉ〜お。
堪らんねぇ。
ぬるめの燗とスルメを用意して、さあこれからしっかり呑み直しだ。
(了)