1969有馬記念

【第1話】グランプリ

この物語は、毎週末お父さんに連れられて競馬場に行っていた男の子とその家族が、競馬(馬券)を通して色々な喜怒哀楽を表現していきます。

1969年の有馬記念が、この物語の最初の舞台になります。

この物語は3部作になっていて、それぞれの部の終わりに〝ことわざ〟が書かれています。

ぜひ〝ことわざ〟にも目を向けてください。

むかしむかし、私がまだ子供だった頃、父は毎週末、

「おいっ、動物園に行くぞ!」

と私を連れ、電車で30分ほどの競馬場に連れて行ってくれました。

母は、

「またそんな嘘ばっかり言って!」

と半分あきれた様子で言い、

「もう、今月お金ないのよ。いい加減にしてちょうだい!そんなお金があるんだったら生活費にも回してよ!」

と、いつもこう付け加えて私達を見送っていました。

小学校の遠足で初めて本物の動物園に行ったとき、母の言っていた嘘の事実を知ったのは言うまでもありません。

でも私は、そんな父と競馬場が大好きでした。

そんなある日、いつものように父が私に、

「おいっ、動物園に行くぞ!」

と言って、私を連れて出かけようとした時、母が、

「ちょっと、あんた、いい加減にしてよ!知らないうちに借金まで作って・・・。これから生活どうするのよ!返す当ても無いのに・・・。もうあんたにはついて行けないわ!今日競馬場に行くなら、私、この家出て行くからね!」

と、いつもとは少し違い、母が父を怒鳴りつけました。

でも父は、

「今日は有馬記念だぞ!競馬をやっている人間は、このレースだけは欠かせん!今までの負けは有馬で取り返す。これが馬券人の心得ってもんだ!今日はそれだけ自信があるし、今年の負けも、借金も全部清算してきてやる!一年働いても儲けられん金持って帰ってきたるわい!見とれっ!」

と、こちらもいつもとは違う口調で母を怒鳴りつけ、父と私は家を後にしました。

電車の中で、私は父に、

「いいの?母ちゃん出て行くって言ってたけど・・・。ほんとに出て行ったらどうするの?」

と訊くと、父は、

「バカだな、そんなことないさ。今までもそう言っても家に帰ったら居たじゃないか。それに今日は有馬記念だ。有馬やらなかったら一年終わらないんだよ」

と笑いながら答えました。

私はいつもと様子の違う母が心配でした。

「でも、ほんとに今年の負け取り返せるの?そんなに自信あるの?」

と父に尋ねました。すると父は笑いながら、

「自信?そんなものあるわけないだろ。あんなの嘘だよ。言葉のアヤだ。自信があっても負ける時は負ける。自信がなくても勝つときは勝つ。分からないから競馬はおもしろいんだ。」

と答えました。

競馬場に着き、父は何レースか馬券を買いましたが全てハズレ。

そしていよいよ有馬記念。

「父ちゃん、どの馬買ったの?僕も応援するから教えて?」

と訊くと、父は、

「穴だ、穴馬だ!やけくそだ!黄色の帽子の馬と橙色の帽子の馬だ!黄色の帽子の9番が1着で来てくれたらそれだけでもいい。もう電車賃も残ってないぞ。これ外したら家まで歩きだからな。しっかり応援しろよ!」

そうこう言っているうちにレースが始まりました。

周りの大人達の頭が邪魔で、私はレースをまったく見ることが出来ません。

大歓声があがり、父も私の横で叫び出しました。

「行け!シンボリ!アカネ連れてゴールへ飛び込め!!よっしゃ~~~!!!!!」

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1969年12月21日
第14回有馬記念
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1着 5枠(黄色の帽子)9番スピードシンボリ
2着 7枠(橙色の帽子)12番アカネテンリュウ
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単勝9番 1,070円(10.7倍)
枠番連勝5-7 4,100円(41.0倍)
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「おいっ、見ろ!全部で150万になったぞ!なっ、言っただろ?今年の負けも、借金も全部清算だ!一年働いても儲けられん金を手に入れたぞ!!」

父は、9番の単勝を20,000円、枠番連勝5-7を30,000円買っていました。

「やったぁ~!嘘が本当になっちゃったね。早く帰って母ちゃんに報告しよ!」

父と私は喜び勇んで家路につきました。

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▼ひょうたんから駒「ひょうたんからこま」
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思いがけない所から思いがけない物が出てくる事。

冗談が本当になる事。

アヤで言った言葉が本当になり、約150万円を手に入れ、喜び勇んで帰ったふたりだが・・・。

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あなたから受け取った応援を力に変えてこれからも頑張ります!