昔話 / ファッション迷子
20年前からほとんど同じようなものばかり着ている。
フォーマルな意味で服装に気を使うことはほとんどない職業なので、例えば数年前の同窓会に上下スウェットにクラークスを履いて参加したら、上場企業勤めの同級生に「えーちゃん、その格好はねえだろ」と笑われたものだ。
学生時代には毎日同じラルフのキャップ、ボロボロのGUESSジーンズを穿いて原宿の路上で昼からビールを飲んでいた彼の左腕にはロレックス、セブンスターはアイコスに変わっていたが、時代は巡るもので、オルガンバーで働いている一回り近く年の離れたDJが、その同級生と同じような服装をしていたりするから面白い。
もっとも僕たちの頃にあった、あるカルチャーに属するユニフォーム的側面とそれに対する勝手な気負いのようなものはなく、もっと軽やかにファッションを楽しんでいる感がある。情報の取捨選択に慣れている世代らしいスマートさ、とも言えるかもしれない。
しかしそれでも、思春期特有のファッション迷子は誰にだってあったはず。
思い出せば14歳の頃。
『この秋はネルシャツonネルシャツでストリートを闊歩せよ』みたいな、どっかのボンクラがたこ焼きを食いながら3秒で考えたようなファッション誌の小見出しに踊らされた僕は、迷うことなく実践......どころか、赤のネルシャツの上に同系色のネルシャツを重ねて羽織り、さらに腰にもネルシャツ(弟のやつ)を巻き付ける『ネルシャツ3枚使い』という斬新なアレンジ を自ら纏い、さらに竹下通りの怪しい店で買ったマルコムXの帽子を政治的主張ゼロで着用、「完璧だ・・・」と独りごちながら、颯爽と家の玄関を出たところで向かいの家のおばちゃんに爆笑されたことがある。
3枚使いの記憶(トラウマ)はこの時だけだが、これで懲りないところが思春期の刷り込みの恐ろしいところで、ファッション誌提案の『重ね着 a.k.a. 謎の2枚使い』はいつか自分の中で洒落者の象徴となっていた。
中3の夏には、白Tの下にグレーや黒といった色のついたTシャツを着るのが自分の中の定番だった。
とある8月の酷暑日に、友人と出かけるため着替えていた僕は突然、『Tシャツじゃなくポロシャツを2枚重ねると斬新でオシャレなんじゃないか』と閃き、迷うことなく黒ポロの上に白ポロを着用、玄関にあった全身鏡に映る自分を見て「完璧だ・・・」とまたひとり悦に入っていると、ちょうど外から帰ってきた母に「暑くないのか」とストレートに突っ込まれ、確かに暑いし、鏡の前の一人ファッションショーを目撃されたし、そもそも俺はなんでポロシャツを2枚着てカッコつけているんだろう・・・と、色々な意味で赤面、混乱した思春期真っ只中の僕は、
「暑くねーよババア!!」
と、そのまま家を飛び出したのだった(お母さん、あの時はごめん)。
母親にそんな暴言を吐いたにもかかわらず、そそくさと駅のトイレでポロシャツを一枚脱いで友人たちとの待ち合わせ場所へ向かう15歳。
Teenagers are all assholes.
待ち合わせの駅前に立っていたのは、真夏にも関わらずタンクトップに革ジャケット、レザーパンツにエンジニアブーツ、サングラスでキメた15歳。
のちの the band apart ギタリスト、川崎亘一である。
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