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Crazy

 6月12日にDOPING PANDA / the band apart の『MELLOW FELLOW』がリリースされました。聴いてくれた皆さんありがとう。

 リリースに至るきっかけはフルカワユタカという男の存在で、8810とTaro-T含む残り6人は彼から迸る情熱に巻き込まれただけなんじゃないかという……その詳しい経緯についてはスター御自らが様々な場所でご発信あそばされていると思うので、恐れ多くてここでは触れない(めんどくさい)ですが、代わりに僕たちがカバーさせてもらったDOPING PANDA「Crazy」についての勝手な思い込みと雑感を書いていこうと思います。 

ロックスターの隣に立たされ緊張している僕

 「Crazy」を初めて聴いたのはYouTube。すげー服着てるなあ、と思った。
 しかし、ルートとトップノートが対照的に下降と上昇を繰り返すキラキラのアルペジオに乗せられたユタカの言葉が耳に入ってくるうちに、何とも言えない感情が湧き上がってきたのを覚えている。

 毎月のように対バンしていたDOPING PANDAがインディーズからメジャーへ移籍して、それからどんな活動をしていたのか、今でも僕はよく知らない。
 その頃は単純に会う機会も減っていたので、本人たちと話すよりメディアで目にすることの方が多かったように思う。学校を卒業して級友たちと自然と疎遠になっていく感じに似ている。

 そんな時期に「Crazy」を聴いて、もしかして3人が当初思い描いていたような状況にはなっていないのかな、と感じたことは覚えている。メジャー初期の代表曲タイトルを散りばめた歌い出しには、後悔が滲んでいるように聴こえたからだ。
 しかし、聴き進めればこの曲がそういう歌ではないことがわかる。何かが上手くいかなかったのかもしれないけれど、全く諦めていない、むしろ等身大の自分を鼓舞する希望の歌。
 ミキシングこそダンスミュージック由来のものだが、性急なビートと歪んだギターから零れ落ちてくる感傷は、かつて新宿や下北沢のライブハウスで馬鹿騒ぎを繰り返していた僕たち世代のバンドの青春期を象徴しているようにも聴こえる。あえて一度切り離したものを出自として再確認しているような。
 そこからここまでの道程、そしてリリース前後の状況とストラグルがあったからこそ生まれた曲なのでは、と勝手に解釈している。
 
 僕はそもそも逆境に抗う人の姿や物語が好きだ。
 結末がどうであろうと、闇雲にでも戦ったその先にある自身の変化、苦しい時間を乗り越えた記憶が、きっとその後の人生の大きな宝になると信じたいから、そういうものが宿った他人の表現に触れるとやはり、胸を打たれる。

 
 そんな「Crazy」は当初カバーされる予定ではなかった。
 今回のスプリット制作では、公私共にユタカのマイメンである原の気合が相当入っていて、「共作曲もカバーもバンドの新曲も俺が全部作る」宣言をしており、彼は彼でDOPING PANDAの別の曲をカバーアレンジしようとしていた。
 しかし今回はソニーからのリリースが決まっていたので、発売延期の挙句リリースツアーが先に始まってしまうような我々のマイペースなスケジューリングは通用しない。録音開始日が近付く中、原監督はとりあえず共作曲(MELLOW FELLOW)に集中しましょう、じゃないとマジでヤバいというタイミングで、僕がカバーを担当することになった(作曲スピードに定評のある荒井はソロの制作中、川崎はスキー旅行で忙しかったのです)。新曲は・・・あ、「夢太郎」あるじゃん、あれは元々エレキ用に作った曲だったからこの機会に、と一瞬で決まった。

 世を見渡せば、カバーの手法は無数にある。
 メロディーはそのまま生かす場合がほとんどだが(しかしTHA BLUE HERB「未来は俺らの手の中」のような例もある)、楽曲のコード進行はそのままでリズムを変えたり、当然その逆もある。
 the band apart と DOPING PANDA は主な楽器編成が同じなので、何も変えずにそのまま演奏しても良い。しかし、原曲の Ⅳ・Ⅲ・Ⅱ・Ⅰを行き来する導入部、言ってみれば王道なコード進行があれだけキラキラと輝いているのは、言葉の並びやメロディーの動きを超えた、”その時の鮮度”が演奏や楽器の音色、ミキシングなどのあらゆる細部に宿っているからに他ならない。ので、じゃあこちらも2024年の自分の鮮度でアンサーしよう、ということで現在の形になった。

 個人的に、青春期ギリギリを切り取ったような原曲の背景色は煌めく銀色、感傷・後悔・歓喜・葛藤・情熱・愛情・・・様々に混乱する感情の渦の中を駆け抜けていくジェットコースターのようなイメージ。
 それを踏襲しても原曲の劣化版にしかならないだろうから、灰色の雲の向こうには何かキラキラしたものがありそうだなー、と教室の窓から曇り空を見ている小学3年生の想像力は雲を突き抜けどこまでも・・・みたいなイメージでアレンジを進めました。

こんな感じ

 

 
 ”I'm sorry me / ミラクル起こせなくてさ” とユタカが歌ったのが16年前、途中で休んでいたにしたって、なんだかんだ未だにつるんで”バンド”なんかやってる我々はまあまあ奇跡的だよね。そこから続く歌詞は、今の3人がそれぞれの形で体現していると思う。
 何より昔からの友達と新しい何かを作れてよかった。
 巻き込んでくれたユタカありがとう。

 
 
 
 





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