引き剥がされていく福岡の海
風を使ったスポーツをしていると、風速計を使わなくても風がわかってくる。たった1メールの違いでも。たとえば風速4メートルと5メートルは、肌にあたる感覚や音が違う。そして遠くに入っている風も、海面の状態で見えてくる。
波も、ひとつひとつ違う。遠くの海のどこかで、海面に吹き付けた風がうねりを作り、目の前に吹く風が風波を立て。潮汐が大きな動きを作る。
海に出ると、こうしたわずかな変化を体中で感じて、使う道具や、今日やることを考える。それが、海を相手にするということ。
今年の夏。福岡でも有数の、見事な海岸線を誇る海の中道が、とてもひどいことになっていた。
毎週のように、朝からジェットの集団が駐車場をほとんど占拠して、テントを張って、酒と食事をとりながら、爆音轟かせ、集団で海を走っていた。
繊細に海の表情を読み取っているぼくたちとは全く違い、爆音で風の音も聞かず、波の表情なんて無視をして。
ここでジェットをしてはいけないというルールがあるわけでもなく、ぼくらは彼らと距離をとって海へ出た。でも、あまりにもひどい。海水浴場にも接近して、マナーもひどいし、うるさいし。なんか、海が可愛そうだ。
そして先週、驚くべきことを聞いた。
海の中道は、3月1日をもって封鎖。
車が入れる入り口を閉じることになったそうだ。
車でしか来れないこの砂浜に立ち寄って、海を眺めることはもうできない。
地元の人達にとって、ジェットは放っておけない存在だったらしい。長年かけて、ようやく封鎖にこぎつけたのだとか。その気持は、わからないでもない。
でもこのことで、ぼくたちのように海を愛し、この環境を大切にしようとしていた人たちも、海から締め出すことになった。同時に、毎年毎年、夏も、冬も、四季を通じて、たくさんの市民が訪れていたこの誇るべき場所を封鎖して、たくさんの人の思いも封鎖してしまったのだ。
特にこの場所は、たくさんの親子連れが訪れる場所だった。きっとこれまでは、この美しい海がふるさとの風景だった。でもこれから福岡のこどもたちは、この風景を心に刻むこと無く育っていくのだ。
これで、奈多海岸から志賀島までのすべての海岸線が封鎖された。
福岡は、本当にこれでいいんだろうか。
マナーが悪い、ごく一部の集団のせいで、これから未来までの、すべての人達と、この美しい海岸との関わりが遮断されていいんだろうか。
ぼくが愛している福岡が。ぼくが大好きなこの土地の人達が、この素晴らしい海と引き剥がされていくのは、どう考えても間違っている。