07/30

居酒屋の軒先にある蚊取り線香から、ひとすじの煙が暗闇へ伸びてゆく。久々の晴れ間。住宅街のベランダは洗濯物で埋め尽くされる。溜まっていた洗濯物を回せるだけ回した。部屋の窓を開けて、なんとなくじめっとした部屋の空気を入れ替える。やたら寒かったり急に暑かったり、今が何月なのかわからないような天気が続く。もうすぐ8月。小学生はそろそろ夏休みだろうか。あまりにも自分の時間が5月頃から止まっていて、学生は夏休みという事実を上手く飲み込めない。なんでもう8月なんだろう。今年の夏は絶対に塊肉とビアサーバーがあるアメリカみたいなBBQをすると決めたのに。塊肉を雑に厚く切って焼き、胡椒をかけた肉をあてにビールを飲むはずだったのに。なみなみのビールでわいわい乾杯するはずだったのに。来年に出来る保証はないが、絶対にいつか開催する。発表される感染者数がどんどん増えてゆく。第二波が来たらしい。それは東京だけではなく、私の住む県でも増えている。県内なら大丈夫だろうという気持ちを持てたのはもう昔の話になってしまった。そろそろ県内のイベントだったら行けるかなと思っていたが、各都市から人が集まることを考えたらそれも行かないという判断になりそうだ。経済を回せと言いつつ自分の身を守る行動を取れというのはおかしな話だ。誰がどんな行動を取るかなんて予測はできない。ニュースを真面目に聞いて従う人もいれば、聞かないで反する行動を取る人もいる。県内を旅行して経済を回そうとしても絶対に県外の人と交わることになる。自分の身を守る行動とは、すなわち在宅しかない。旅行を推奨するようなキャンペーンも始まってしまった。もうこれからどうしたらいいんだろう。どんどん自分の行動に制限がついてくる。馬鹿正直に制限をかけられる人がいるから、制限をかけられない人、かけなくていい人が経済を回してくれる。真面目な人が損をしてるように思うが、結局は誰もが損をしている。私は平和な損を取りたい。仕事終わりにいつも通る道。いつもと違う匂いが混ざっていた。匂いの元を辿ると居酒屋の軒先に蚊取り線香が焚かれていた。ひとすじの煙が暗闇に飲み込まれていく。夏の匂い。ハッとした。夏であることを思い知らされた。私の時間は5月頃から止まっているが、確かに日々は進んでいるようだ。進んでいるはずなのに、今も、これからの未来も、闇に消えてゆく。今日もなにもない一日だった。

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