05/28

夕方、強い雨が降った。部屋にいる誰もが大きな雨音に気付き、窓の外を見る。雨の匂い。窓際の人がぱたぱたと窓を閉めに行く。雷の光と音。ゲリラ豪雨が夏の訪れを告げる。これほどの豪雨は久しぶりだ。去年の夏以来だろうか。家を出たときは眩しいくらいの晴天だった。油断していた。鞄に入れていた折りたたみ傘で何とか雨を凌ぎながら帰路につく。夏はしばしばこういった日がある。私の住む地域は雷が多いらしく、しょっちゅう鳴る。隣町には魔王城を取り巻くような、真っ黒で雷を伴う雲がかかる。高架橋のように少し高くなっている道路を通ると、同じ目線にそんな雲が現れるので、震えながら魔王城への道を突き進むことになる。雷も上から落ちるものではなく、すぐそばでぱっと光る。これが本当に怖い。異世界に来てしまったのかと本気で考え始めるほどだ。その町を抜けて私の住む街に着いたらいくらか落ち着いているのが通例である。おそらく私の街は魔王城なので結界が張られているのだと思う。というのは冗談で、隣の町は雲が留まるような地形をしているのではないか、と推測している。そのあたりに住む人達にとっては、迷惑極まりない話だ。傘を差してるとはいえ、貧弱な折りたたみ傘では顔を守るのが精一杯だった。すっかりびちゃびちゃになった頃、家に着いた。靴は防水なので靴下は濡れていなかったが、服は色がすっかり変わるほどに濡れていた。ポニーテールの先端から水が滴る。さっさと風呂に入ってさっぱりする。雨に濡れた後に入る風呂が好きだ。肌に当たるお湯の感じがいつもと違う気がする。水に当たり冷えた身体が温まっていく時間が、なんとも気持ちいい。風呂から上がった後は、自分を取り巻く湯気と、ほかほかというオノマトペがついてまわる。漫画の一コマになったような気分だ。たまに雨に濡れて帰るのも良いかもと思ったが、風邪を引いてしまうのは避けたいので、次は大きい傘を持っていこう。数年前まで傘を持たない人間だった。出先で雨が降れば近くのコンビニでビニール傘を買っていた。当時はビニール傘に困らないくらい沢山あった。とはいえ、それから数年経ち、置き忘れたり盗られたり壊れたり、やっと通常在庫くらいに落ち着いてきた。なんやかんや使い切れたので良しとする。ビニール傘は消耗品だ。いつかは一本の良い傘を買いそれを使う生活がしたいが、私の性格ではまだ先の話だろう。今日もなにもない一日だった。

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