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中高生の留学プログラム参加時の教員対応研修

勤務校で行った留学における相談研修をまとめる。10年以上携わってきた中高生の留学事情(実践知)とRCA留学アドバイザーのテキスト(学問知)をベースに内容を考えた。研修はネイティブの先生も含めての実施のため、バイリンガル表記で行った。


Case1:ホストガチャ不安

生徒から以下のような質問が来た時に、どういった回答をすべきなのかを考えてみる。正解はないがグループを組んでいろんな解答例を知り共通の認識、ポイントを抑えていく。

生徒:留学にホストのアタリ、ハズレがあると聞きました。先生どう思いますか?
I heard that there are good and bad host families when studying abroad. I am really worried about how my host will be. What do you think?

ポイント:自己主張と他者受容Assertion vs. Acceptance

Case1の質問には以下の点を抑えた回答が必要である。
・どこまで自分の主張を貫いて欲求を満足させるか
To what extent do we insist on getting our way?

・どこまで環境を取り入れ、周囲に同調するか
To what extent do we adopt to our environment and become more in tune with our surroundings?

・どのように異文化を自分に取り入れ、自分の態度を変えるか
How do we incorporate different cultures into our life and how do we change our attitude?

基本は外国に来たのだから現地のルールやホストのハウスルールに従うのが当然である。一方で慣れ浸しんだ生活スタイルとの変化に対応するには時間も必要だしステップを踏む必要もある。異文化の全てを受け入れろではなく、自分の意見をはっきりということもまた大切である。ポイントは他者視点に立ちつゝも自己主張をするというメタ的な態度の獲得を教員からのアドバイスを通じて、生徒に気づいてもらうことである。

ポイント:異文化理解・受容のプロセスHow to Overcome Cultural Shock

異文化受容には時間がかかる。何事も新鮮に感じる海外旅行気分から始まり、ホームシックを経験し、海外生活を通じて自文化の良さ、悪さに気がつく。時に差別に合うこともある。受容と拒否の葛藤を経て両方を統合したIdentityの形成していく。均衡⇔不均衡を経ながらBi-Culturalismとなっていくのである。ホストとの関係性も波があり、波を経験しながら受容し、受容されていくことを念頭に置いて結論を急ぎすぎないアドバイスを心がける。

Case1解答例

ホストと生徒は人間関係だよ。だからホストに良い悪いがあるわけじゃないよ。ホストもどんな留学生が来るか心配しているはずだよ。良い人間関係が築けるようにどんなことをしたら、ホストが喜んでくれるか考えてみよう!
Answer Key
Hosts and students depend on their relationship.There is no good or bad host.Think about what you can do to make the relationship better!

Case2:留学の目的、モチベーション

生徒:やりたい事が決まっていないんですけど、留学したいって気持ちはあるんです。やりたいことがないと留学はやめた方がいいですかね?先生どう思いますか?
 I haven't decided what I want to do during study abroad period, but I do want to study abroad. Should I stop to go abroad? What do you think?

ポイント:留学希望者の人となりの理解Understanding Students’ Character

・目的を持った生徒が現地でうまくいくとも限らない
なんとなく留学したい生徒も、現地で目的を見つけて活動することもある
Some students have specific purposes on study abroad but others don’t. They might find their original purposes later.

留学希望者への対応で、この難しい見通しをある程度つけなければならない
Before leaving Japan, students should consider their purpose

動機の種類 Type of Motivation
 Instrumental Motivation道具的動機付け:
大学入試のために留学する。英検で一つ上の級を取りたい。目標達成のために役立つという理由で留学(言語学習)する動機付けのこと
Integrated Motivation統合的動機付け:海外に友達を作りたい。英語で歌を歌いたい。英語で小説を読みたいなど
実際には各動機付けが、ない交ぜの状態と言うんおが実際だろう
道具的Instrumental:短期的ー集中的Short&Intensive
統合的Integrated:長期的ー継続的Long&Continuous

大人はやはり道具的なものを求めがちであることを自認すべきである。それでいて、帰国後に生徒に留学を振り返らせると統合的な成果を上げることが多い。留学期間が短く思ったような言語習得がおきなくとも、今後の英語学習への新しい視野(テストのための英語学習ではない)などもある。

留学の目的はあったほうが良いが、ないからダメということではない。ただし留学生活はいいことばかりではないし、日本での生活で経験できることもあるはずである(生徒会活動や体育祭、文化祭など)。留学までの期間で考える視点を教員から提示することが大事であろう。
ただし注意すべきは、保護者に言われて行きたくもないのに海外留学することである。留学中に必ずと言っていいほど辛い体験もあるはずである。そういった壁にぶち当たった際に「本当は自分は留学したくなかった」という言葉が出てくることがある。留学準備の際に必ず自分の意思で留学を決断したということが大切である。

Case2解答例

やりたい事があった方が現地の生活も充実したものになるよ。でもやりたい事が現地で見つかることもあるよね。先輩に話聞いてみたら?
Ansewr Key
If you have something you want to do, your life there will be better. But sometimes you can find what you want there.Why don't you ask your seniors about it?

Case3:留学と大学受験の関係

生徒:留学すると日本の大学入試の推薦に有利って先輩から聞いたんですけど、先生どう思いますか?
 I heard that studying abroad has some advantages for the university entrance exam. What do you think?

ポイント:教育投資としての留学Study Abroad as an investment

留学にお金を払って、それに見合うリターン(検定結果、留学証明)を得るという考え方。保護者のクラスターにはこういった考え方があることは事実としてある。ただし警鐘を鳴らしたいのは、投資としての留学に偏りすぎると、成果主義へのプレッシャーは生徒を時に萎縮させているということである。もちろんそのプレッシャーを跳ね返すように努力する生徒もいるが、帰国後、子ども英語力の伸びに満足できない保護者がいることも確かである。そういった子は、例えば英検に受かる自信がないので、検定試験を受けることを避ける傾向にある。自分の英語力を客観的にジャッジされ、それによって保護者含め周囲から「留学したのに・・・」と評価されたくない気持ちは十分理解できる。
また高校での1School Year留学は数学や日本史、古文など日本の学習の足かせとなることも確かである。理系への進学となると数学Cまでの履修は時間的に厳しくなる。また日本史など試験範囲の広い学習も難しくなるため、推薦受験を利用する生徒も多いことは事実である。一方で国公立受験や理系進学ができない訳ではなく、個別のケースを見れば一般受験で合格している生徒もいる。ここらは、そういった生徒たちを指導している教師陣の力量やカリキュラムへの対応というところで見極める必要があるだろう。

帰国した生徒が留学で得たものは、当初目標立てしていなかった副産物的なもの(例:両親への感謝)で、そちらの方が価値があるというスタンスのほうを教育では追求していきたい。
Paying for study abroad and getting a return (exam results, proof of study abroad). Too much emphasis on the idea of investment, pressure to be results-oriented. Students who return to Japan have learned something different from what they planned to learn.(e.g., appreciation for their parents).

ポイント:平田オリザAround the World on a Bike

英語コミュニケーションI 教科書CROWN(三省堂)より抜粋「Around the World on a Bike」世界一周という遊学から帰って、その成果を聞かれ、オリザ少年が言った「わからないな」と答えた理由はなんでしょう?
Why did he say “I don’t know?”

平田オリザは、日本で最も有名な劇作家の一人だ。
彼はまだ16歳のとき、16ヶ月間の自転車で世界旅行をした。
日本に帰って来ると、人々は同じ質問をしたのが思い出せる。「旅行から何を学んだの?」いつもこの問いに答えるのに苦渋する自分に気づくのだ。多くの国に訪れたのは事実だし、この経験がこの後の私の人生で役に立つとわかった。私は多くの友人も作った一方で、自力で生きることも学んだ。人々は大きな一般論を聞きたがっていることはわかっている。しかし、私はどうしても「人生は厳しいため、それぞれ共に生きることを学ばなければならない」とか「人類にもっとも重要なのは自由であり、自由な人生を送る準備ができている。」みたいな何かを言うことはできない。その代わりに笑って口ごもる「うーん、そんなないよ。経験が将来助けになるかもしれない。わからないな。
いま私は18歳だ。この時点ではまだ私は旅行から何を学んだかを明確に答えることはできない。私の前には長く伸びた道があり、さらに先に多くの曲がりくねった道に枝分かれしている。将来振り返った時、旅で学んだことを言えるようになりたい。今私が言えることは家に帰った少年は16ヶ月前に日本を旅だった少年とは別人だったということだ。
Around the World on a Bike
Hirata Oriza is one of Japan’s most famous playwrights.  When he was just 16, he made a 16-month around-the-world trip on a bicycle.  Soon after the trip, when he was 18, he wrote a book about it. 
Back in Japan, I remember people asking me the same question: “What did you learn from the trip ?”  I always found myself hard put to answer.  It is true that I visited a number of countries, and this experience would turn out to be useful for the rest of my life.  I also made lots of friends, while learning to live on my own. I know that people wanted to hear big generalizations. But I simply couldn’t say something like: “Life is hard, so we have to learn to live with one another,” or “What is most important for human beings is freedom; I am ready to give my life for freedom.”  Instead, I would just smile and mumble, “Well, nothing much.  I may find my experience helpful in the future.  I don’t know.” I’m now 18.  At this point, I still cannot answer definitively what I learned from my trip.  There is a long stretch of road in front of me, branching off into a number of winding roads further ahead.  In the future, as I look back, I hope to be able to say what I learned from my trip.  All I can say now is that the boy who returned home was a different boy from the one who left Japan 16 months earlier.

Case3解答例

留学や英語力が伸びると、出願できる大学や学部が増えるよ。でも1年間日本の勉強が遅れたり、志望学部によっては科目の履修で受験が厳しくなることもあるよ。何か特定の学部や大学に行きたいって目星は立ってるの?
Answer Key
Through study abroad, you can improve your English. However, you may have to delay your studies in Japan for a year. It may be more difficult to take the entrance examinations because of that. Do you have a specific department or university in mind?

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