第2話 混沌
薄暗い、じめっとした日だった。
朝から感じていた空気だった。
雨の日独特の、地面から湧き出てくるような臭いにおい。
あの「雨のにおい」は雨が地面で跳ね、とても細かい微粒子(エアロゾル)として分散したときに、地面の微細菌の代謝物などがともに空気中に舞い散ることによっておこるらしい。
いつの日か本で読んだ気がする。
18:20。
今日の仕事は終わりとする。
いや、正確にはまったく終えられていないが、今日はこれ以上やってもはかどらないだろう。
今週末の会議の資料作り、発表練習、進めているプロジェクトの予算案作成。
ここずっと、仕事をすることが楽しいと思えていない気がする。
光通と呼ばれる大手広告会社に総合職として入社してから、18年。
40代にも突入し、周りの同期たちは順調にキャリアを構築している中、私は、産休、育休を繰り返し、キャリアのレールにのれなかった。
総合職として入ってはいても、任されるのは自分よりも何歳も年が低い子たちとの共同プロジェクトばかりだ。
会社から最寄り駅までの道のりを、ピンクのキリエの傘を差しながら、黙々と歩く。
だけど、もう自分のことだけを考えられる人生は終わった。