半導体の現況
これまで好調であった半導体も2022年の6月以降、調整局面に向かっている。メモリーと言ってもDRAMとNANDがありDRAMの三大メーカーは、三星、SKハイ二クスとマイクロンである。この3社で94%近いDRAMシェアを占有している。NANDは、この三社に加え、キオクシア、ウエスタンデジタル、ウインボンド、YMTC等、プレーヤーが多いのが現状。
昨年の9月、10月もメモリーの在庫が過多となりDRAM価格が下落したが、安くなれば、スポット買いが入りすぐ掃けたが、今年度は環境が全く異なっている。
昨年は、実需があった為、安くなったところを需要家が安く仕入れるべく買い入れがされたが、今年は在庫が過多となっても買い入れが鈍化しており在庫が積みあがる傾向となっている。その大きな背景は下記の通りである。
① スマホの売り上げ減。
② PCの売り上げ減。
③ サーバーの売り上げ減。
スマホは、前年対比で20%以上販売減となっている。大きな要因は、インフレによる物価高騰の影響を受けた買い控え、地政学リスク、中国各地のロックダウンや中国自体の経済の悪化があげられる。DRAMもNANDもスマホに使用されているため、当然のことながら需要が落ち込む。
PCは、コロナの影響による在宅需要、ゲーム需要とウインドーズ10への切り替え需要により支えられていたが、これも一巡したのに加え、景気の後退懸念から買え控えが生じている。PCには、スマホ以上にDRAMとNANDが使用さているから、メモリー販売には影響を及ぼす。
好調を維持してきたデータセンター向け、具体的にはサーバー向けは、GAFAMの業績悪化に伴い、データセンター投資が鈍化しつつある。ここにも大量のDRAMとNANDが使用されているので、需要が減少している。
白物家電も一巡しており、また、予想される景気の後退やインフレから売上が減少している。
メモリーメーカーは、トリプルパンチを食らった状況となっているが、ICを生産する前工程の稼働は継続しおり、特に汎用性が高いメモリーを作りこみ、在庫を積み増ししている。これらのウエハは、後工程の組み立てに回さずウエハを保存するチップバンクに保管されており、すでに半年分以上の在庫が積みあがっているのが現状。近いうち、前工程も過多となった在庫処理の為、稼働率を二桁引き下げる方針。
ここでの問題は、前工程で生産したウエハが在庫過多、後工程のパッケージも組立済のものが在庫過多、そして、これらメモリー半導体を搭載した機器類が完成品レベルで在庫過多となっていることである。生産量に対して、各分野の実需が完全に冷え込んでおり、この状態が解消しない限り、メモリー分野は回復しない。
この状況を作ったのは、インフレや地政学リスク、エネルギーの高騰、景気後退への危機感といった環境やマインドに伴うものと、コロナから生じた在宅需要が一巡した影響と考えられる。メモリー分野が低迷すれば、そのサプライチェーン上にあるメーカーは全て影響を受けることとなる。例えば、メモリーチップを実装する業者や必要な主材・副主材メーカーも在庫調整期間は、新規の注文が入らず、生産稼働率がダウンする。サプライチェーンの中間加工業では、稼働率が50%程度になる見込みのところもでてきている。
この在庫調整期間の本格化は10月からであり、回復の見込みは来年の6月というのが大方の見方ではあるものの、景気の後退が現実となった場合、その深刻度により変化することもある。DRAMは全ての産業に使用される半導体につき、DRAMが低迷するということは、CPUやマイコン、無線用の半導体も同じ状況となることを示唆している。
但し、半導体は、2020年から好調であり2021年には26%も成長した産業。2022年もここに来て在庫調整が本格化する状況にはあるものの、10%の成長率が予測されていることを考えると、大きな調整局面に直面しても不思議ではない。というのも、二桁の成長をした翌年は、一桁台の成長か、マイナス成長を必ず起こす性質を持つ産業だからである。
現在、三星とSKハイ二クスは2023年の投資を凍結することを示唆しているが、マイクロンも同様なスタンスではあったものの、アメリカ国内に1.5兆円を投じ、前工程と開発センターに投資することを決定し発表をした。これは、2030年には、100兆円産業となる半導体市場の中でメモリー需要が倍増するものと分析し、先手を打った形となっているが、本音はアジア依存を薄めたいところも見え隠れする。要するに、*CHIPS法の圧力である。
*「CHIPS and Science Act」、いわゆるCHIPS法とも呼ばれるこの法案は、半導体の開発・生産支援のほか量子コンピューティングやAI、ロボティクスといった先端技術への投資も含まれており、今後10年間の投資総額は約2,800億ドル(37兆8,040億円)に達する。CHIPSは「Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors」の略。世界的な半導体不足を背景に、半導体供給能力の拡大と米国シェアの回復などを目的として2020年6月に提出された法案。
この動きからもわかるように半導体市場は、長期目線では成長過程にあり、2023年は、その途上の在庫調整期間と捉えることができる。2022年の1月から6月までの環境と6月から12月までの半導体をとりまく環境は一変している。2023年も1月~6月までの環境と7月以降の環境が一変することが予想されている。にわかに2017年に大きな需要を齎したブロックチェーン用の半導体需要が徐々に増加しており、一つの起爆剤になる可能性もあり得る。
2023年の前工程の設備投資は、鈍化することが予想されている。注文のキャンセルも想定されているが、何れまた必要となる装置につき、そのままとする見方もできる。
この点は、各社各様につき、予測ができないところでもあるが、より複雑な機構をもつ前工程の装置は、キャンセルせず、よりシンプルな機構をもつ後工程の装置はキャンセルする可能性が高いとみています。
9月29日に発表されたマイクロンの第四四半期の決算は、19.7%の減収、48.5%の営業減益で終えたが通期では、過去最高の増収・増益となった。ようは、Q1~Q3が如何に好調であったかを物語っている。下期偏重型につき通常Q4は、大きく業績を伸ばす時期に低調な業績となったのである。
Q3を終えた際のQ4のガイダンスは、7,400億円だったが、それを下回り6,600億円となった。先に述べたすべてのセクターで落ち込んだが、
唯一、車載だけが奮闘した結果となった。更には、9月から11月の第一四半期に当たるガイダンスを4.250億円とした。昨年のQ1の業績が7,700億円であったことを考えると大幅な減収で営業赤字が想定されている。ただ、やはり同社も後半には市場が回復すると見ており、具体的な通期予想は控えているものの、前向きな姿勢を示している。ただ、前年度を下回ることは確実であり、どこで着地するかは、経済の動向次第と言ったところである。
*ここで記した金額は、1ドル=100円換算で算出したものである。
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