【平成28年】司法試験国際私法 第一問 模擬答案
第一 設問1
1 準拠法決定はまず性質決定から行われるところ、この性質決定は法廷地法等ではなく、国際私法独自の立場から行うべきである(国際私法独自説)。本件は、夫婦であるAB間における一方配偶者の債務が他方配偶者の連帯債務となるか、が問題となっているところ、これはどのような問題として性質決定されるか。
2 この点、夫婦間の連帯債務関係は婚姻を機に発生するのだから、法の適用に関する準拠法(以下「通則法」)25条が定める婚姻の効力の問題とすべきとの考えもある。しかし、通則法26条の定める「夫婦財産制」には、夫婦財産の帰属や財産管理権限等が含まれるところ、夫婦間の連帯債務関係はこれらの問題と表裏一体をなすものであるから、夫婦財産制の問題として性質決定すべきである。よって、通則法26条が適用される。
3 通則法26条という夫婦財産制についての定めが別途置かれたのは、25条により準拠法が定まるならば、婚姻中の準拠法変更や準拠法の不明確等が生じるので、これを防ぐため夫婦による準拠法選択を一定の範囲で認めるためである。
そして、同1項は、同25条を準用し、連結点としている。このような選択的連結が採用されたのは、26条1項がこのような連結をするのは、両性の平等を図るとともに夫婦財産制も婚姻の効力の問題であるので身分的効力の準拠法と一致するのが望ましいからである。
本件では、AB共に甲国人であるから共通本国法となる甲国法が準拠法となる。そして、同2項は前述の理由から夫婦による準拠法の選択を認めているが、本件では、選択にあたる事情が明示・黙示ともにないため、準拠法は甲国法となる。よって、甲国法上、夫婦間の連帯債務に関する規定はないから、AはBの債務を連帯して負うことはない。
4 他方で、同3項は、1項・2項のような準拠法が決定されてしまうと、夫婦の一方と取引する相手方は想定外の準拠法が適用されることになるから、この相手方の信頼を保護するため、一定の内国取引についてはその準拠法ではなく、日本法を適用することとしている。その趣旨から、同項における「善意」は準拠法についての事実である。なお、「第三者」とは夫婦以外の者である。
本件では、Bが日本においてDと締結した契約についての問題であって、かつAB夫婦以外のDがその相手方である。つまり、DがABとの契約における準拠法が甲国法となることにつき知らなかったのであれば、本件契約に関する効力の準拠法は日本法となる。そして、洗濯機の購入は日常の家事の範囲内といえるから、AはBと連帯して債務を負担することとなる。
5 したがって、Dが「善意の第三者」である場合は、日本の民法における761条によりAは請求を拒否できず、Dが「善意の第三者」でない場合は、Aは請求を拒否できる。
第二 設問2
1 小問(1)
(1) 本件は、実親であるA及びBが、嫡出子であるCの有する不動産Pについて管理権を有するかが問題となっているため、子の監護権に含まれる財産的側面、つまり子の財産管理の問題として性質決定され、親子間の法律関係の問題を規定する通則法32条が適用される。
(2) 同32条は父母の平等および子の利益の観点から、子の側の法によって準拠法を決すべきという考えの下、法定代理との関係における明確性の要請及び本国法優先という通則法の整合性確保の点から父または母と子の共通本国法、扶養義務法との均衡の点から子の常居所地法と段階的に連結している。
本件では、A及びBの本国並びにCの本国は甲国であり、同一のものであるから、通則法32条により、甲国法が準拠法となる。そして、甲国民法によれば、親以外から譲渡を受けた子の財産について、親に管理権を認めないとしている(同③本文参照)ところ、本件不動産PはAB以外の者からCが贈与を受けたものである。では、この前提となる「Cが未成年か」という問題はどう考えるべきか。
(3) この点、生活関係を分解しそれぞれについて準拠法を決定するという国際私法の構造から、別個の単位法律関係を構成すべきと考え、行為能力の問題として通則法4条1項が適用される。
同項はその連結点を当事者の本国法とするが、このような本国法主義を採用する根拠は、その者が国籍を有する国の風俗、慣習、宗教等がその者の能力等の問題に大きく関連する点にある。
本件Cは甲国籍を有するから、本国法である甲国法が準拠法となるところ、甲国民法①によれば18歳を以て成年としている。
つまり、15歳であるCは未成年である。から、甲国民法によればA及びBはPを処分することはできない。
よって、設問中の考えは正しい。
2 小問(2)
(1) 本件A及びBが、Cのために不動産Pを売却するにはどのような法的措置が必要か、という問題は何と性質決定されるべきか。
(2) 確かに、これは親権者による子の財産処分の問題であって、子の財産管理であるから親子間の法律関係の問題と性質決定し、通則法32条が適用されるとも考えられそうである。
しかし、親権者が財産処分を許されないとされる財産についてはもはや、親権者としての問題を逸脱しており、子の財産管理という面にはとどまらないため、このように考えるべきではない。
では、どのように考えるべきか。
この点、行為能力が不十分である者の財産処分については、親権の埒外である場合、他に代理すべき者がいないと同視して、一般的な後見の問題として性質決定すべきである。つまり、通則法5条または35条が適用されると考える。
(3) 本件Cは甲国籍を有するから、本国法である甲国法が準拠法となるところ、甲国民法①によれば18歳を以て成年としている。つまり、15歳であるCは未成年である(上記1(3)参照)。よって、Cの後見の問題は、Cが未成年であるから通則法35条が適用される。
(4) 同35条1項は、後見について被後見人の本国法を連結点としている。これは、行為能力はその者の本国法によるという4条1項の原則を受けてのものである。
そうすると、Cの本国法である甲国法が準拠法となる。
したがって、本件は甲国民法③ただし書により、父母ABは財産後見人の選任を検認裁判所に請求し、甲国民法④より請求を受けた検認裁判所は財産後見人を選任する必要がある。
(5) ところで、上記のおける請求及び選任の方法については手続に該当するところ、手続は法廷地法によるの原則から日本法の適用を受けることとなる。しかし、日本法においては「検認裁判所」も「財産後見人」も存在しない。このような場合、日本法で代行することができるか。
ア この点、いわゆる手続き代行が許されるかについては、当該外国法における趣旨を日本法においても実現できる場合に限り、許されると解するべきである。
イ 本件では、「検認裁判所」による「財産後見人」の「選任」を日本法で代行できるかが問題となっているが、甲国民法③ないし⑤は、親権者以外の者から得た財産につき、その財産独立性から一時的に親権者に財産管理権を認めず、親権者の請求を受けた裁判所という公的機関による審査を経て、子の利益になるように財産の管理者を選ぶものである。一方で、民法840条及び841条は、親権者が管理権を失う等で未成年後見人が必要となった場合、親権者の申請により家庭裁判所が後見人を選任する審判を行う(家事事件手続法39条、別表第一71の項)ものである。
このように考えれば、民法及び家事事件手続法による未成年後見人の選定審判制度によれば、甲国民法③ないし⑤の趣旨は実質的に実現できるといえる。
したがって、本件では、民法840条及び841条並びに家事事件手続法39条及び別表第一71の項を類推適用し、「財産後見人」の「選任」手続を行えばよい。
以上