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【平成31年】国際私法司法試験 第二問 模擬答案

第一 設問1について

1 請求①について

(1) 性質決定は国際私法の解釈問題であるから、法廷地法等でなく国際私法独自の観点から行う。その観点から、本件は、Yの被告小説内のXに窃盗癖があるとの記述が、Xの名誉を毀損するとしてXがYに慰謝料を求めていることより、名誉毀損による不法行為に基づく損害賠償、つまり「名誉毀損の不法行為」の問題として性質決定される。したがって、法の適用に関する通則法(以下「通則法」)19条が適用される。

(2) 同19条は連結点を被害者の常居所法としてる。名誉毀損の加害結果発生地は複数生じ、17条によれば複数の法が準拠法となるがこれは煩雑で、統一された準拠法があることが便宜にかなう点、多くの場合に被害者の常居所地で重大な損害が生じる点、そして加害者にとっても被害者の常居所地は認識が容易であり、予測可能性にも資する点をその根拠とする。本件では被害者であるXの常居所地は甲国であるから、甲国法が準拠法となる。

    なお、通則法20条は、最密接関係地法の原則における具体的妥当性を図るため、不法行為においてより密接な関係がある他の地がある場合には、その地の法を準拠法とすると規定している。これを本件について検討するに、本件詩の著者であるYの常居所は日本であるため、不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたとはいえないし、XとYとは不法行為当時契約関係にもなかった。更に、他の事情に照らしても、日本より本件不法行為に密接な関連を有する地はないといえる。よって、同20条の適用はない。

(3) 加えて、不法行為において外国法が準拠法となる場合、通則法22条により日本法が累積的に適用される。本件は準拠法が甲国法であるから、日本法が累積的に適用される。

2 請求②について

(1) 本件は被告小説におけるXが精神疾患を患っていたとの記述がXのプライバシー権を侵害するとして、XがYに対し慰謝料を請求している。このような、プライバシー権侵害による不法行為に基づく損害賠償は、どのような性質決定をされるべきか。

(2) この点、プライバシー権侵害による侵害は、その情報が多数の法域に拡散に、各地において被害者に損害を生じさせる性質を有することから、その性質は名誉毀損と類似しており、上記1(2)におけるのと同様の根拠が妥当するのであるから、国際私法独自の立場から、名誉毀損類似の問題として性質決定し、通則法19条を類推適用すべきと解する。

(3) 本件では、プライバシー権侵害による不法行為として通則法19条が類推適用される結果、上記1(2)のとおり甲国法法が準拠法となり、22条により日本法が累積適用される。

3 請求③について
(1) 本件訴えは、著作権侵害を理由としての損害賠償請求である。

    著作権については日本国も批准する文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(以下「ベルヌ条約」)の5条(2)がいわゆる保護国主義を掲げていることから、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、その効力が当該国内においてのみ認められる(属地主義)といえる。これより、著作権に関する問題は国家的作用を有するものとして公法分野に属し、国際私法的な通常連結による準拠法決定になじまないように見える。

    しかし、著作権をめぐって私人間で紛争が起きた場合は私法的な側面を有するのだから、一概に国際私法的な解決を排除するのは相当でない。そこで、次にベルヌ条約が直接適用されるかを検討する。

(2) この点、一般に条約は国内法に優先する特別法的関係にあり、国際私法も国内法であるが、そもそも統一法条約は各国の実質法を国際的に統一することを目的とする条約を言うのであるから、抵触法に関し何ら拘束するものではない以上、日本法が準拠法となる場合に初めてこれを適用すれば足りるといえる。

    ただし、当該条約が抵触法について何らかの手当をしている場合、つまり当該条約が抵触法の適用を待たずに直接適用される性質を有している場合にはこれに拘束され、直ちに適用されると解するべきである。具体的には、適用範囲の明文規定がある場合や、明文規定がなくとも、条約の趣旨・目的・内容等から同様の性質を有する場合がこれに当たる。

    ベルヌ条約は5条(2)において著作権の救済の方法については同条約及び同盟国の方れにによること、また5条(3)において著作物の保護は本国の法令によることを規定しているが、これらは適用範囲に明文規定があり、どの国の法によるかを示しているのだから、抵触法の適用を待たずに直接適用される性質を有している場合にあたる。よって、同条約の規定する範囲内では同条約が日本国の抵触法に先んじて適用される。

(3) では、本件のような著作権侵害に基づく損害賠償請求は、ベルヌ条約の適用を受けるか。この点、国際私法独自の立場から解するに、著作権侵害による損害賠償請求は知的財産権の特殊性から「著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法」の問題として性質決定され、パリヌ条約5条(2)によって適用される法が決定されると考える。なお、本件ではパリヌ条約の存在があるため、特許権に関する条約がなかったカードリーダー判決の射程外であって、通則法17条の問題とはすべきでない。

    よって、パリヌ条約5条(2)により、適用される準拠法は、パリヌ条約となり、日本国内での侵害についてはさらに日本法、甲国内における侵害についてはさらに甲国法が、それぞれ準拠法となる。

第二 設問2について

1 小問1

(1) 日本の裁判所においてXの執行判決請求が認められるかは、訴訟手続の問題として、「場所は行為を支配する」の原則から導かれる「手続は法廷地法による」の原則から、日本法により判断されることになる。

外国判決の承認執行は本件外国判決は民事訴訟法118条及び民事執行法24条で認められている。本件は、甲国民法P条を適用して慰謝料に加えてその3倍程度の懲罰的損害賠償請求を認容したものであるところ、ここでもっぱら問題となるのは、懲罰的損害賠償の部分が、「判決の内容」「が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しない」か(民事訴訟法118条3号前段)という点である。

(2) この公序審査は、通則法42条と同じく、外国判決の執行が法廷地である日本の司法秩序の根幹部分を害するようなとき、それを避ける「安全弁」としての目的を有している。

では、どのよう場合に公序に反したと判断すべきか。この点、外国裁判所の判決が我が国の採用していない制度に基づく内容を含むからといって、その一事をもって直ちに右条件を満たさないということはできないが、それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものと認められる場合には、その外国判決は右法条にいう公の秩序に反するというべきである(判例同旨)。

(3) 本件において検討するに、甲国民法P条の懲罰的損害賠償は、日本民法においては採用されていない(民法416条、709条参照)。一方、懲罰的損害賠償は、違法な行為によって利益を得たものに対して巨額の賠償責任を科すことで一般的な予防効果を期待されている。これは、甲国民法P条に「見せしめのため」と明記されていることからも読み取れる。

他方で、日本における一般的予防効果は、刑事的・行政的法にその役割がある。そして、民事法における損害賠償制度はもっぱら当事者間の個人的・私的な賠償関係を規律するものである。つまり、日本国の民事法秩序において、一般的予防効果を期待した懲罰的損害賠償制度は基本原則を根幹から異にしており、相いれないものである。

よって、懲罰的損害賠償認容判決は「判決の内容」「が日本における公の秩序又は善良の風俗に反」するものであるから、民事訴訟法118条3号を充足しない。

(4) したがって、本件外国判決の執行判決請求は認められない。

2 小問2

(1) 本件では、本件外国判決に係る訴状等が、翻訳文を添付されて甲国から直接郵送されている。ここで、本件外国判決の承認執行で問題となるのは、民事訴訟法118条2号の送達要件である。

(2) 民事訴訟法118条2号の趣旨は、手続の通知が適正に行われなかったことにより被告が外国訴訟手続に十分関与できなかった場合に、その結果として下される敗訴判決の承認を拒むことで被告の手続的保護を図る点にある。

そうすると、被告が現実に訴訟手続の開始を了知することができ、かつ、その防御権の行使に支障のないものでなければならない。のみならず、訴訟手続の明確と安定を図る見地からすれば、裁判上の文書の送達につき、判決国と我が国との間に司法共助に関する条約が締結されていて、訴訟手続の開始に必要な文書の送達がその条約の定める方法によるべきものとされている場合には、条約に定められた方法を遵守しない送達は、同号所定の要件を満たす送達に当たるものではないと解するべきである(判例同旨)。

(3) 本件では甲国から郵便にて国際書留により直接訴状等が送達されている。しかし、日本はハーグ送達条約10条(a)における拒否宣言を行い、このような直接送達については条約上、認めないとしている。つまり、本件のような直接送達は(甲国が同条約批准国であれば)条約に定められた方法を遵守しないものであって、民事訴訟法118条2号所定の要件を満たさないものといえる。



感想

ベルヌ条約やて!?六法に載ってないで工藤(泣)
いろいろ逡巡した挙句、「公法問題か私法問題か」→「直接適用できるか」→「条約の適用範囲か」みたいな感じになった。
カードリーダー判決は知ってるけど、あれだし、特許は条約なかったから「不法行為」としたのでは?と思っておりまする。

承認執行の公序、うーん嫌い!w
最近手続的公序の判例出たから怪しいと思ってる。
個人的に怪しい民族118条は間接管轄と手続的公序だな!(当たり前)

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