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【平成28年】司法試験国際私法 第二問 模擬答案

第一 設問1

1 国際裁判管轄をはじめとした国際民事手続については、「手続は法廷地法による」の原則に従い、日本法によって決定する。

本件は、XがY1及びY2を被告とした契約履行を求める訴訟であるから、民事訴訟法(以下「民訴」)3条の2以下により、その管轄の有無をみることとなる。

2 まず、民訴3条の2に規定される通常管轄を検討するに、本件訴えはYら法人を被告とするものであるから同3項が適用される。そうすると、日本法人であるY1は日本に主たる営業所があるため(会社法4条、49条)、同項により日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる一方で、Y2は乙国で設立し、その本店及び事務所は乙国内に存在しているため、日本の裁判所には国際裁判管轄が認められない。

3 では、Y2について、民訴3条の3以下の特別管轄はどうか。

(1) 本件は、本件契約上の履行を請求するものであるから、同条1 号該当性が問題となる。しかし、金員支払債務の履行地は甲国であり(問題文中③参照)、また契約時の選択準拠法(通則法7条参照)である日本法においても、甲国と指定された場合日本は履行地とならない(民法484条1項参照)ため、同号を充足しない。

(2) 次に、本件訴えは金員の支払という財産上の訴えであるから、同3号該当性が問題となる。しかし、Y2にはさしたる資産がなく、本店や事務所も乙国にしかないので、請求の目的物も差押えるべき財産であって価額が著しく低くないものは日本国内になく、同号を充足しない。

(3) また、Y2は営業所を有する者だが、その営業所は乙国にあり、同4号を満たさないし、甲国への旅行者に対するサービスをその事業としていたので同5号も充足しない。

(4) さらに、管轄権についての合意もなく(問題文中④参照)、同3条の7を充足せず、未だ応訴の事実もないから同3条の8も充足しない。そして、同3条の6以外に該当すべき事情もない。

(5) では、本件訴えがY1とY2を同時に被告とする訴えであることから、同3条の6該当性はどうか。

    本件訴えは、Xからの一の訴えにより、Y1に対する金員支払い請求とY2に対する金員支払い請求をしており、これらの金員支払いは同一の本件契約の履行をその根拠とし(「密接な関連」)、さらにY1には民訴3条の2第3項により管轄権が認められているから、同3項の6本分の要件を満たす。

    そして、本件は複数に対する訴えであるところ、同条ただし書は同38条前段要件の充足をも求めている。同前段は「訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づく」ことを要件としているが、本件訴えの訴訟の両目的物は「本件契約に基づく金員支払い請求権」であって同一の訴訟物だから、この要件を充足する。

    したがって、Y2については民訴3条の6により、日本裁判所に国際裁判管轄が認められる。


第二 設問2

1 本件では、XがY1に対して本件契約に基づく金員の支払いを求めているが、これはY2の法人格が否認されることを理由としている。

2 本件契約の成立及び効力の準拠法は通則法7条により、日本法となるところ、Y2とXは本件契約における意思表示を互いに交わしているから、双務契約として本件契約にかかる債権債務関係は有効に成立している。

そうであれば、仮にY1とY2が同一の法人である場合、Y1も本件契約に基づく金員支払い債務を負うこととなる。

では、本件請求の前提となる、Y2の法人格が否認されY1が同一の法人となるか、についての問題はどの法が準拠法となるか。いわゆる先決問題は本問題とは別個のものとして性質決定すべきと解されるところ(判例同旨)、その性質決定が問題となる。

3 この点、性質決定については国際私法独自の立場から解釈すべきところ(判例同旨)、これは契約の成立効力の問題として性質決定し、通則法7条以下を適用させることも考えうる。しかし、法人格の否認とは、ある法人につき独自の法人性を否認した上で、別の法人と同一の法人性とみなす法制度であるから、法人の人格性や行為能力の有無の問題として捉える方が適切であると解する。つまり、法人格の否認については、当該法人の行為能力の問題として、その従属法によって準拠法を決するべきである。

3 本件では、Y2の法人格が否認されるかが問題となっているため、Y2の従属法が準拠法となる。

法人の従属法については、設立時に準拠した法を従属法とすべきである。これは、国内法として会社法2条2号、933条2項1号、及び民法37条1項1号がこのような考え方と整合的であり、また民法35条及び会社法821条は設立準拠法を前提とした上でその弊害防止のための規定となっていることを理由とする。

本件Y2は乙国法人であるため、その設立準拠法は乙国法であるから、従属法も乙国法となる。

したがって、結局Y1が本件契約に基づく債務を負うかどうかについては、乙国法が準拠法となる。

第三 設問3

1 本件契約においては、金員の支払通貨として甲国通貨が指定されているが、Y1会社は日本円による履行、つまり代用給付権を求めており、同権利の有無が問題となっている。

この点、通貨に関する問題は強制通用力の維持という公的目的があるため、公法上の問題とする考え方もある(公法理論)。しかし、代用給付権問題は強制通用力の維持の側面にとどまらず、契約当事者間の利害調整や、同当事者の便宜の確保の側面もあるため、単に公法上の問題とすべきではなく、私法上の問題として通常の連結の方法で解決すべきである。

2  では、どのように国際私法の立場から準拠法を定めるべきか。

この点、代用給付権については金銭支払にかかる方法という履行の態様に関わる問題として捉え、補助準拠法としての履行地法によるべきとの考え方もある(履行地法説)。

しかし、ある通貨の価値や通貨にかかる信頼というのは時々刻々と流転するもので、その支払によって当該契約のどの範囲までが履行されたとするのかは常に変化するものであるところ、その「弁済」という法的評価は契約における実質的な問題であるといえる。

 また、補助準拠法という考え方は二重の性質決定にもなるため、国際私法の立場としては認めるべきでない。

 以上より、いかなる通貨をもって金銭を支払うというのは、通貨の指定まで含めて契約の内容を成すのであるから、債権の実質的内容に関わる契約の効力の問題と捉え、法律行為の効力の問題と性質決定し、通則法7条以下により準拠法をみるべきである(契約準拠法説)。

3 通則法7条は当事者の選択した地の法を連結点としており、その趣旨は前述とおりであるところ、本件では、当該契約の準拠法として日本法が明示的に合意されているため(問題文中③参照)、Y1会社が日本円による履行を認められるか否かについては、日本法が準拠法となる。

以上

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