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【平成31年】国際私法司法試験 第一問 模擬答案

第一 設問1について
1 性質決定は国際私法の解釈問題であるから、法廷地法等でなく国際私法独自の観点から行う。その観点から、本件はA及びBがDとの養子縁組の有効性が問題となっていることより、「養子縁組」の問題として性質決定される。つまり、法の適用に関する通則法(以下「通則法」)31条1項及びその方式については同34条が適用されることとなる。
2(1) 同31条1項前段は、養子縁組の準拠法について連結点を養親となるべき者の本国法と定めている。この趣旨は、養親子の生活は養親の本国を中心としたものになるのが一般的である点、及びその国の法律が定める要件を具備する実際上の必要がある点にある。
そして、同法条は養親となるべき者と養子となるべき者との1対1の関係で定まるものであるため、養父と養子、養母と養子それぞれで準拠法を決めることとなる。本件では、AとB、どちらも甲国籍であり、準拠法は甲国民法となる。
(2) また、同項後段は、いわゆるセーフガード条項を定め、養子となるべき者の本国法によれば、その者若しくは第三者の同意又は公的機関の許可その他の処分が必要となる場合、その要件については養子の本国法が累積的に連結点となる。セーフガード条項の趣旨は養子となる本国法を累積適用させることでその者の保護を図る点にある。
本件では、養子となるべきDは日本国籍を有するところ、日本法の累積的適用が考えられる。
(3) 同34条は、法律行為の成立の問題と密接な関係があるため成立の準拠法と同一のものによるべきだが、これを厳格に貫くと当事者の期待に反し得るため、「場所は行為を支配する」との原則から行為地法に適合する方式も有効とする選択的連結を採用する。
本件では、甲国法又は行為地である日本法が準拠法である。
3 準拠法の特定と適用
(1) まず、通則法21条1項前段について検討する。
  ア 甲国民法によれば、養子縁組には家事裁判所の決定によらねばならず(同①)、これにより養子と実方の父母及びその血族との親族関係は終了する(同②)。ここで問題となるのは、同①による、「家事裁判所の決定」の方法である。実際に同法が想定するのは、甲国の家事裁判所が養子縁組の決定を行う、というものであるが、これを日本国法で代行できるか、という問題である。
イ この点、当該外国法の趣旨が日本法でも同等に実現できる場合、その手段を以て代行すべきと解する。
    本件でこれをみるに、甲国民法①において想定されている「家事裁判所の決定」とは、家事事件に関する専門性を有する裁判所が、公的機関として養子縁組の可否につき判断することをいうと解されるところ、日本においては家庭裁判所の行う公的機関の判断という意味で、特別養子縁組成立の審判(家事事件手続法164条)であれば甲国民法①の趣旨が実現できるといえる。
    よって、本件はA、Bの双方とも、特別養子縁組成立の審判で代行することができる。
(2) つぎに、通則法31条1項後段について検討する。
  ア 民法では、15歳未満の者を養子にする場合は、その法定代理人の承諾が必要であること(797条1項)、未成年者を養子とする場合は家庭裁判所の許可が必要であること(798条本文)が定められているところ、これはセーフガード条項の「第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分」にあたるか。
  イ この点、セーフガード条項の趣旨から、形式的に条文に該当したもので養子の保護を趣旨としているものが、セーフガード条項の対象となると解するべきである。
    そうすると、民法797条1項は判断能力の乏しい本人に代わり法定代理人が養子を成立させるべきか判断するものであり、同798条はそれを裁判所によっても判断させるものである。つまり、どちらも養子となる者の保護を図るものである。したがって、これらは31条1項後段により累積適用される。
    本件ではCが養子縁組を承諾しているので、A及びBは家裁の許可(家事事件手続法161条)を得ればよいこととなる。
(3) 最後に、通則法34条について検討するに、これは甲国法でも日本法でも準拠法となるところ、上記の手続を適当に履践すれば充足する。
    したがって、AD及びBDは有効に養子縁組ができる。
第二 設問2について
1 本件は、A及びBがDとの養子縁組の有効性が問題となっていることより、「養子縁組」の問題として性質決定される。つまり、法の適用に関する通則法(以下「通則法」)31条1項及びその方式については同34条が適用されることとなる。
2 まず、通則法31条1項後段によれば、AD間、BD間共に子の本国法である日本法が累積的に準拠法となる。また、同項前段によれば、AD間では日本法が、BD間では甲国法が準拠法となるように思える。
(1) しかし、甲国国際私法は、養子縁組につき、養親となるべき者の住所が甲国内にあれば、甲国裁判所が国際裁判管轄を有するとし、当然法廷地法である甲国民法が適用される、とする管轄権的アプローチをとっている。これを基に、通則法31条1項の連結点は「本国法」となっていることから、反致(通則法41条)が認められないか、いわゆる隠れた反致が認められるかが問題となる。
(2) この点、隠れた反致は、管轄権的アプローチを、ある国に住所がある場合は当該国の法が準拠法となると読み替えた上で、更にこれを双方化し、住所地のある国の法が準拠法となると読み替え、これに従って反致を認めるものである。
    原則として、管轄的アプローチを以上のように読み替えるのは無理があるため、隠れた反致は認めるべきでない。しかし、このように読み替えることに無理がない場合は、例外的に隠れた反致を認めるべきである。このとき、法廷地漁りによる法律の回避を避けるため、単独管轄になる場合に限られるべきである。
(3) 本件でこれをみるに、甲国国際私法③は、養子縁組について養親となるべき者が甲国に住所を有する場合は、甲国裁判所が国際裁判管轄を有する旨定めている。そして、同④では養子縁組の決定については法廷地法を準拠法とすることと定めている。この同④が決定のみとはいえ、「法廷地」という一般的な文言により、他国法を想定していることから、同③の規定は、養子縁組についてはその養親の住所地法を準拠法とすることを想定していると解することができる。よって、甲国国際私法は養子縁組につき、養親となる者の住所地法を準拠法とする抵触規定を内包しているといえる。
    したがって、本件は通則法31条1項前段によれば、Bの本国法である甲国国際私法によれば養親となる者の住所地法が準拠法となるところ、Bの住所地は日本である。つまり、「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきとき」に該当するため、隠れた反致によりBD間の養子縁組については日本法が準拠法となる。
3 では、具体的な準拠法を特定し、要件充足性を検討する。
ABは20歳以上である必要がある(民法792条)。また、A及びBはそれぞれ、養子縁組に承諾し(同796条)、未成年Dを養子にするため、共に縁組をしている(同795条)。また、同797条1項及び798条については上記第一3(2)のとおり充足している。また、方式の面でも通則法34条2項によれば日本法でも準拠法となるところ、上記の手続を適当に履践すれば充足する。
よって、ABは本家に養子縁組を有効にすることができる。
第三 設問3について
1 小問1
 本件は、A及びBがDを養子にすることが問題となっているため、養子縁組の成立の問題として通則法31条1項、及びその方式について34条1項又は2項が適用される。
 同31条1項前段によれば、AD間及びBD間のどちらも、養親となる者の本国法である日本法が準拠法となる。また、同項後段によれば、そのそれぞれについてDの本国法である乙国法が準拠法となりそうである。そして、同34条1項2項によれば、その方式については日本法または乙国法となる。
 ここで、同31条1項後段のセーフガード条項は連結点を養子となる子の本国法としているところ、同41条の反致が適用されるかが問題となる。
 この点、41条がそのただし書で、あえてセーフガード条項を適用除外していないことから、反致は成立しうるとも考えうるが、そもそもセーフガード条項は、子の本国法の保護規定を累積適用することにより、子の保護を図ることをその趣旨とする。つまり、41条ただし書記載の単位法律関係は限定列挙と解し、セーフガード条項につき反致で日本法が適用され得るとすることはこの趣旨を没却することとなる。よって、セーフガード条項については反致が適用されないと解するのが相当である。
 そうすると、本件では31条1項後段により、乙国法が累積適用される。
2 小問2
 日本法の実質要件及び方式要件については、第二3のとおり充足する。ここで問題となるのは、セーフガード条項による乙国民法についてである。
 乙国民法⑧によれば、養子となるべきものが10歳未満であるときはその実親が養子に代わって養子縁組の承諾をすることができる旨定められているが、これは日本民法797条1項と同様に判断能力が未熟な養子の代わりに、その実親が適切な判断を下すことが趣旨と解され、子の保護を趣旨としている。つまり、「第三者の承諾」としてセーフガード条項の対象となる。本件ではCが承諾しているのでこの要件は充足する。
 乙国民法⑨によれば、養親となるべき者に10歳以上の子がいるときは、その子の同意が必要とされている。しかし、これは養子が親族に加わることで、自らの相続分が減少するために置かれたもの、つまり実子の保護を趣旨としている。したがって、この規定は養子の保護を目的としたものではない。そのため、この規定における「満10歳以上の子」は通則法31条1項後段の「第三者」にあたらず、その子の同意はセーフガード条項の対象とならない。よって、Eが養子縁組に反対していることは問題とならない。
 以上より、本件AとBはDを有効に養子とできる。
以上

感想

隠れた反致の論証ってどんな感じなんだろうか…。
原則認めない説取ってたんだけど、場合によっては認められるという説の方が色々利便性高いのかなぁ。


セーフガード条項の反致、ううむ。
よく理解できてなかったけど、割と論じやすいのら「セーフガード条項の趣旨を貫徹できない!だから反致せんのですよ!!」説なんだけど、逆に「反致41条の法解釈としては、わざわざ限定列挙に見える書き方で、明文なき適用除外を増やすっていうのは…ナンセンスじゃないの?だから原則通り反致する!」って説も理解できる…うーん、悩む!
でももう隠れた反致は当分でないよね(希望的観測)


そういえば、反致を論じるときには趣旨とか根拠とか書かないといけないのだろうか…今度調べてみよう。

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