Vol.883「聖なる犯罪者」★★★☆

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 ☆ ★ 映画のなかの人生、映画のような人生。★ ☆

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【映画とは、人生を2時間で切りとるもの】
映画が魅せる、人間のやさしさ、弱さ、強さを、いっそう鮮烈に、
そしてもっと映画を観たくなる、ひと味違うメールマガジン。

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  Vol.883「聖なる犯罪者」★★★☆   2021.2.8(月)
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  【1】STORY
   少年院を出た青年は、なりゆきで司教になりすますことに。
   敬虔だった彼は、自分の言葉で村人に語りかけていく。

  【2】Review
   深遠なテーマだが、コミカルにもサスペンスにも味つけし、
   最後まで話を引っ張る秀作。但し後半とオチは難解。

  【3】Column
   真実は人を自由にするが、人には明かせない真実がある。

________________________________________________Boże Ciało

オスカーにもノミネートされたというポーランド映画。
ポーランドといえば敬虔なクリスチャンのイメージがあるので、
キリスト教が主題となれば、かなり重厚な映画になる予感。

<オフィシャルサイト>
http://hark3.com/seinaru-hanzaisha/

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┃1┃ STORY (観ていないあなたへ)

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少年院を出た青年は、たまたま入った教会で司教を名乗る。
なりゆきでミサや告解に応じることになり、四苦八苦。
次第に多くの村人たちが秘めている苦しみや弱さを感じとり、
彼は自分なりの行動で、彼らの救済を図ろうとするのだが。

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┃2┃ Review (観終わったあなたへ)

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【ポイント】★★★☆

<内訳>
テーマ   :★★★★★
ストーリー :★★★
キャスト  :★★★★
スタッフ  :★★★★

タイトルや設定の通りに、宗教的なテーマを扱っているので、
なかなか重苦しい展開を予想したが、意外と魅せる作り。

いきなり司教の真似事をはじめて、ぶっつけ本番で、
告解やミサに取り組むくだりは、かなりコミカルにも感じる。
クリスチャンならもっと笑えるんだろうな。

やがて村で起きた殺人事件?の話が浮上するにつれ、
真実を隠す村人たちとの話は次第にサスペンスフル。
少年院にいた過去が暴かれそうになるハラハラさもあり、
きちんと2時間を「面白い映画」に仕立てていて感心。

ただ、「肝心の真相」はハッキリせず(たぶん意図的)、
最後のオチは難解で、これも観客に解釈を委ねているので、
日本人にはなかなかピンと来ないんじゃないかな…。
悩んだけれど、★4はつけずに3.5にしました(☆は0.5)。

主役の青年は歌も上手いし、鋭い眼光と存在感で、
演劇の人だろうと思ったらやっぱりそうらしい。
ヤクとアルコール漬けの退廃した世界観と、
宗教世界の裏表をキレイに対比する演出も見事。
ちょっと考える映画がほしい人に、薦められる秀作。

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┃3┃ Column(観終わったあなたへ) 

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「真実はあなたを自由にする」(ヨハネの福音書8:32)

この一節では、罪を犯した女性を石で打とうとする人々に、
イエスが「罪のない者は、石を投げるといい」と告げる。

しかし、罪のない者など、いるだろうか。
自らが犯してきた罪をすらすら告白する村の司教の前で、
主人公の青年は沈黙する…言えない、少年院を出てきたとは。

大きな交通事故で息子や娘を失った村のある一家は、
日々、その事故の「加害者」を責めたてている。
その人が本当に加害者なのかも知らず。
その人の家族がどんな想いでいるかを考えもせず。

罪を犯していない者などいない。
「真実は人を自由にする」かもしれないが、
人は、自らが犯した罪という真実には、容易に向き合えない。

むしろ、人は不都合な真実をひた隠しにしようとする。
他の人が犯人だと分かると、いっせいにその人を責める。
多くの人が欲しいのは、自由や真実などではない。
自分の罪を隠し、正当化し、誰かに責任をなすりつける、
都合の良いストーリーに、人はどうしても惹かれてしまう。

悪いのは子どもたちじゃない。轢いた車の運転手だ。
タバコを吸う子どもを止められない。悪いのは本人だ。
少年院に行くヤツは、一生ダメ人間だ。本人が悪いからだ。
そいつが裁かれて、一生を社会の底辺で過ごすことは当たり前だ。

そうして、人は自らの罪や、悲しみを忘れようとする。
青年は、そんな村の人々の弱い心に真摯に向き合い、
すべての人に救いを差し伸べようと、懸命に想いを伝える。

赦しとは、忘却ではない。赦しとは、愛だ。
真実をじっくり見極めて、傷ついている人々がみな、
手を取り合わないかぎり、悲しみから解き放たれることはない。

しかし、人は弱い生き物だから。
青年の努力は、なかなかすぐには報われない。
そして彼もまた、自らの罪と向き合わなければならない。

確かに、オレは罪人だ。
だが、オレは自らの罪を知っている。
それは全部、オレのせいなのか?
その罪を償うのは、オレだけなのか?

みんなが石を投げてくるなら、受けて立とう。
つまり、オマエには、罪がないんだろ?
鬼気迫る彼の目は、じっくりと観客席に向けられている。

2021/2/8 WHITEシネクイントにて。

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┃4┃ 次回予告 ほか

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その他、筆者からのお知らせなどなど。

★ 次回予告「KCIA 南山の部長たち」…………………………

懐かしのイ・ビョンホンが主演を務める韓流サスペンス。
韓国のサスペンス映画は、なかなかイイものが多いです。
実話と政治的背景をうまく重ねてドラマを盛り上げる、
そういう傑作が過去いくつもありましたが、今回は如何に。

★これまでのバックナンバー…………………………………………

かろうじて、昔やっていたブログがここに残ってる。
http://filmandlife.seesaa.net/

なんと、まぐまぐが復刊できました。。。
https://www.mag2.com/m/0000197069

しかしなぜかバックナンバーは出てこない…。
まあそんなものか…ショックだが、やむなし。

そのうち過去のオススメを復刊します。
ちょっとお時間をください。
気長にやっていきますので、今後ともよろしくお願いします。

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【映画のなかの人生、映画のような人生。】
 Vol.883 2021年2月8日
 発行者:モノカキスト
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