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#42【遊星からの物体X ファーストコンタクト】ep.2「ホラー映画のホラー音楽以外の大事な要素」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#42にあたる内容を再編集したものです。

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【遊星からの物体X ファーストコンタクトについて】

2011年公開(日本公開2012年)
(1982年の映画『遊星からの物体X』の前日談)

監督:マティス・ヴァン・ヘイニンゲン・ジュニア
音楽:マルコ・ベルトラミ

登場人物

ケイト・ロイド:
アメリカ人。古生物学者。

サム・カーター:
アメリカ人。ヘリ操縦士。墜落事故から生還する。
映画ラストでケイトに物体だと見破られる。

サンダー・ハルヴァーソン博士:
アメリカ人。生物学者。ケイトに南極での調査を持ちかける。
映画終盤で怪物化し襲いかかる。

ヘンリク:
ノルウェー人。最初の犠牲者。

グリッグス:
アメリカ人。ヘリの搭乗員。
オラフを心配する素振りを見せるが、実はすでに物体に乗っ取られている。

オラフ:
ノルウェー人。ヘリでグリッグスに殺害される。

ジュリエット:
ノルウェー人、女性。コリンを疑う素振りを見せるが、実はすでに物体に成り変わられている。

カール:
ノルウェー人。ジュリエットに殺害される。

ペデル:
ノルウェー人。火炎放射器で歯に詰め物のない4人を見張る。
その後デレクに銃殺される。

エドヴァルド・ウォルナー:
ノルウェー人。観測隊隊長。
ペデルの火炎放射器が爆発したあと脇を抱えられて運ばれるが、腕がずり落ちて正体を表す。
アダム、デレク、ヨナスを殺害。

アダム・フィンチ:
アメリカ人。ハルヴァーソン博士の助手。
エドヴァルドに殺害される。

デレク・ジェイムソン:
アメリカ人、黒人。ヘリの搭乗員。
ヘリ墜落事故から帰還するも、エドヴァルドに殺害される。

ヨナス:
ノルウェー人。
隔離小屋に引きずり込まれたラーシュを見て、助けを求める。
その後正体を表したエドヴァルドに殺害される。

ラーシュ:
ノルウェー人。犬飼育係。
ヨナスと二人で隔離小屋に向かい引きずり込まれるが、最後まで生存した。

コリン:
ノルウェー人。無線通信技師。
映画ラスト、恐怖にかられて自ら喉をかき切った姿が見つかる。

【前回の振り返り】

 前回はホラー映画の音楽とは、ということと、効果音の様な音楽についてみてきました。
 観客を恐怖させるために作られていて、非常に繊細な演出によってさらに怖さを助長していることがわかりましたね。
 ホラー映画の成り立ちが今のホラー映画の基盤になっていて、20世紀のクラシック音楽から多大なる影響を受けていました。
 効果音の様な音楽とは、音楽としての機能と効果音としての機能、両方を兼ね備えている音楽のことで、それらがこの映画ではよく使われていました。
 その結果、意識的に音楽を聴かなくても、感覚的に恐怖心に繋がる様に細かい点に配慮された作りになっていましたね。

【ホラーにおける打楽器の考え方について】

 ホラー映画における打楽器の使い方は大きく分けて2種類あります。
 ひとつめは、アクションシーンでのリズムが楽曲に備わっているパターンです。
 これは一定の法則でリズムが加えられ、危機的な状況や緊張感のあるシーンで演奏されます。
 ふたつめはいわゆるホラー的演出として使われます。
 いわゆるビックリする系のパターンで、なにか唐突に現状が打破された時に演奏されます。
 今回は後者のホラー的演出のパターンをみていこうと思います。
 あまり多くを語る様なことはないっちゃないのですが、ホラー映画だけではなく、アドベンチャー映画にも時折登場する演出です。
 例えば、インディージョーンズシリーズやパイレーツオブカリビアン のような未開の地を冒険するようなアクションアドベンチャー映画でもこの様な音楽的演出がされることがあります。
 お宝を手に入れるためにジャングルの中を探索する道中、以前探索していたであろう人間の骨が唐突に出てくる演出の時など、ビックリ要素の時にこの打楽器はつかわれることがあります。
 もちろん他の楽器も一緒に演奏されることがあります。
 とにかく、いきなり大きな音がなることが重要で、とにかくビックリさせられれば効果として成功と言えます。
 では今回の遊星からの物体Xファーストコンタクトではどうだったでしょう。

打楽器の使われるシーン1

 まず初めのシーン
12:51
主人公が初めて宇宙船を見たシーンです。
 この宇宙船が画面に出てくる時に打楽器は演奏されます。
 早速ビックリさせる演出ではないところで、演奏されています。
 ということはビックリさせる演出に演奏するというよりは、リアリティのないものが、さらにいえば異質な物が登場した時に演奏されているのかもしれません。
 この時点ではまだ断言できないので、次のシーンをみていきます。

打楽器の使われるシーン2

14:03
氷漬けの未確認生物が登場するシーンです。
 はじめは局所的に氷漬けの一部しか登場しませんが、その後俯瞰で何かわからない謎の生物であることがわかった時に打楽器が演奏されます。
 このシーンでも驚く様な演出ではなく、物体を確認したことに対して演奏されています。
 これもやはり、異質なものが画面内に入ってくることでの音楽的な演出に近いですね。

打楽器の使われるシーン3

28:41
ではまた少し違う使われ方がされています。
 氷漬けの物体が逃げ出し、はじめて犠牲者が出るシーンです。
 この時に物体からの脅威と同時に打楽器が演奏されます。
 この物体は体の一部を伸ばして人を攻撃してくるのですが、その攻撃が人に当たった時に打楽器が演奏されます。
 これは驚きの演出として使われているように感じられそうですが、唐突というよりかは当たったことに対しての演奏ととったほうが自然です。
 というのも物体もなんとなく出てきているし、攻撃してきた時の演出もあるため、驚くというよりかは犠牲者が出てしまう緊迫感の方が観客にとって感じ取りやすい感情になります。
 そのため、驚きのシーンとまではいきませんね。

打楽器の使われるシーン4

48:51
人に擬態していた物体が主人公の前で擬態を解いた時のシーンです。
 このシーンでは非常にビックリ要素がありそうですが、これまたそこまで ビックリの演出ではなく、主人公の後ろで不気味な音を立てて変身している様子が映りながら、打楽器が演奏されます。
 この場合ビックリという恐怖心より、早く逃げてと言いたくなる様な緊迫感に近い恐怖心が勝ります。
 そのためビックリ演出というよりは、異質な物が画面に登場することでの演奏という風にとることができます。

 このようにこの映画での打楽器の使われ方は、驚かせる要素というよりはホラー映画の本質的な、あり得ないものが映り込むことへの恐怖心、シュールレアリズムのような使われ方がされています。
 シュールなものというと少し面白い感じになってしまいますが、そうではなく普段の見慣れた風景にあるはずもないものが追加されることで、人は恐怖心を覚えるものです。
 そのあるはずもないものが打楽器の演奏と深く関係していたということになりますね。

打楽器の使われるシーン5

 さあしかしながら、非常によく使われる演出でももちろん使われています。
1:06:09
ここでは小型の物体が暗闇から突如現れるシーンです。
 主人公達が暗闇をライトで照らして歩いていると、小型の物体が現れ
打楽器が演奏されます。
 これは明らかに驚かせる演出としての打楽器ですね。
 実際にめちゃめちゃ驚きました。
 この驚かせる演出は他にもいくつか出てくるのですが、ぜひ驚いて欲しいのでここでは割愛します。
 驚かせる演出の他に、異質なものが登場した時に演奏される打楽器の演出はとても効果的でしたね。
 ホラー映画の真髄と言いますか、恐怖心をうまく助長する、怖いと感じさせるためにどんなことでもするといったような、プロ根性のようなものを感じますね。

【この映画のジャンルの振れ幅について】

 この映画は基本的はホラー映画もしくはSFパニック映画もしくはSFホラー映画として有名です。
 なので、この映画の大半はホラー音楽が占めています。
 通してホラー音楽の要素を残していますが、もちろん紆余曲折ストーリーのある映画ですので、ずっと同じテンションの楽曲が演奏されているわけではありませんね。
 なので、どのようなジャンルがあるかをみていこうと思います。
 それでもこの映画はホラー音楽の要素がかなり強い映画なので、そこまで多くのホラー以外の要素というのはないのですが。
 ではまず、どの様なものがホラー音楽として機能しているかをはっきりさせておきます。
 アップルミュージック ザ スィング オリジナル モーション ピクチャー サウンドトラック 14曲目に収録されている「ミーティング オブ ザ マインズ」という楽曲でこの楽曲の冒頭は、理想的なホラー音楽の要素を持っています。
 まずは不協和音、シェーンベルクの12音技法、アリアトリックな音のテクスチャこれらの要素が音楽の中心にある場合をホラー音楽とします。
 この楽曲の詳しい話はサブスクリプションでお話ししているので、興味のある方はぜひ聴いてみてください。

ホラー以外の要素が含まれる楽曲1 サスペンス

 ではそのホラー音楽の要素が含まれない楽曲ひとつめは、2曲目に収録されている「ロード トゥ エンタルクティカ」という楽曲です。
6:43
主人公のケイトさんが南極大陸に謎の建造物があるため、同行してほしいという誘いを受けるシーンです。
 この楽曲はサウンドトラックで聴くと、展開の違う楽曲が地続きで演奏されますが、映画的には2回に分けて演奏されています。
 今回は楽曲の前半部分に当たります。
 楽曲の冒頭は、セレスタとストリングスセクションによるとてもサスペンスな要素と、ファンタジーもしくは神秘的な要素が使われています。
 サスペンスの要素には疑いや主人公の思考に関しての要素が加わります。
 そしてファンタジーもしくは神秘的な要素では、人知を超える様な存在を示唆しています。
 そのためこのシーンでの音楽的効果は主人公の南極への誘いが、神秘性が高すぎてどこか疑わしく感じているような効果を与えます。
 しかしその後二つ返事で「行きます」と主人公が答えていることから、知的好奇心が上回っていることが分かりますね。
 そのあとアダムさんと少し話した後、すぐにヘリコプターのシーンに移ります。
 その時は楽曲の後半部が演奏されます。
 演奏は拡大されて、木管楽器、金管楽器、打楽器が追加されます。
 それでも基本構造は変わらないものの、アドベンチャー音楽の要素が追加され、物語の始まりを感じさせる作りになっていますね。

ホラー以外の要素が含まれる楽曲2 神秘性

 次は3曲目に収録されている「イン トゥ ザ ケイブ」という楽曲です。
11:16
南極に着いた一行が建造物を確認しに洞窟に入るシーンです。
 この時は神秘的な要素を多く入れていますね。
 ホラー音楽ではなく、シンプルに神秘性を感じる音楽を書いています。
 映像も青い氷の洞窟の様なところを通っていて、とても神秘的です。
 それに加えて謎の建造物ですから、ホラーの要素というよりは謎めいた神秘性についての音楽的演出を加える方が効果的、との判断だと思います。
 やはりこの時までは、この後起きることなど予想もつかず、知的好奇心であったり発見への興味が強く出ていることを示唆していますね。
 その後、建造物が登場する時に少しホラーの要素を入れているのが、知的好奇心を上回って恐怖心が出てきたことを音楽で表している、ともとれて素晴らしいですね。

ホラー以外の要素が含まれる楽曲3 アクション

 次は5曲目に収録されている「ミーツ アンド グリード」という楽曲です。
 この楽曲ではアクション音楽の要素が追加されています。
28:59
初めての犠牲者が出て、皆がその現場に向かい物体との戦闘が始まるシーンです。
 仲間は武器を持っていて、戦えば倒せることが分かるということがこのシーンでは示唆されていますね。
 そのため戦いのシーンなので、アクション音楽が追加されています。
 アクション音楽は実はホラー音楽といくつかの共通点を思っています。
 それは不協和音と唐突な拍子の変更です。
 そのため、ホラー映画のなかで襲われる様な身体的な恐怖を感じるシーンではとても効果的に機能しますね。
 ですので、何度かアクション音楽の要素がこの映画でも使われています。
49:11
ジュリエットさんがすでに物体に乗っ取られていて、主人公を襲うシーンです。
 この時に勢いよく襲ってくるのですが、その際にアクション音楽が使われています。
 ここもわかりやすく、身体的恐怖を感じるシーンですよね。
 そしてアクション音楽の共通点として、テンポが速くなります。
 8拍子でBPM112~168あたりの範囲で書かれるのが一般的です。
 テンポが速くなることで、危機感や緊張感が増して観客は急げと感じたり、早い場面展開に着いていくことができます。
 いわゆる手に汗握る展開というやつですね。
1:27:33
でもそうですね。
 主人公が宇宙船で物体に襲われるシーンでも、アクション音楽が使われています。
 このシーンではさらに5/8や7/8などの変拍子と唐突に拍子変更するなどで、さらにアクション性を高めています。
 最後の戦いのシーンなので、さらに危機感を増していっていることから、徐々に危機感が高まる様に要素を少しずつ増やしている様にとることができます。
 このラストの戦いのシーンを最高潮として、その前のアクション音楽にはアクション音楽の要素を減らすことで、最後のアクション音楽の要素を一番効果的に使っていると捉えると、アクションの強度をコントロールして、観客にどのシーンが一番危機的かを提示する作りになっていました。
 このシーンの音楽は19曲目に収録されている「サンダー バックス」という楽曲で聴くことができます。

ホラー以外の要素が含まれる楽曲4 バラード

 そして最後は20曲目に収録されている「ジ エンド」という楽曲です。
 この楽曲は悲しいバラードとして書かれています。

 ※ここは若干のネタバレを含みます。聴く際は十分にご注意ください。

1:30:38
物体を倒して、宇宙船も壊したシーンです。
 やっと安心できるシーンなのにとても悲しい音楽が用意されています。
 観た人ならわかる演出で、共に行動して信頼していたサムさんがすでに物体に乗っ取られていたことが悲しいバラードの演奏される動機になっています。
 それに主人公は気付いてしまって、車と共に乗っ取られたサムさんを倒さなくてはなりません。
 それこそが悲しいバラードが書かれた理由ですね。
 ここでとても粋な演出として主人公は初めは、サムさんが乗っ取られていることに気付かずに二人で安心して車に帰ります。
 その際に少しポジティブなバラードが演奏されます。
 しかし、サムさんが乗っ取られていることに気付いて、チェロによる演奏でまた悲しいバラードの演奏に戻ります。
 そして悲しいバラードのまま主人公はもう一台の車で帰るというわけですね。
 とても悲しい演出です。

この映画のジャンルの振れ幅について まとめ

 以上がホラー以外の要素が盛り込まれた楽曲というわけですね。
 サスペンス、神秘的なファンタジー、アクション、バラードとこの要素はこの映画にとって非常に重要な要素です。
 ホラー映画でありながら、そのストーリーの彫りの深さみたいな点に直接関与するように、様々なジャンルが使われていましたね。
 映画のジャンルはあくまで大きな括りとなっていて、その中に細かなジャンルの要素が入ることで、ストーリーとともに音楽も完成して行ってました。

【エンディング】

 というわけで2回にわたって、遊星からの物体Xファーストコンタクトをやってきました。
 生粋のホラー回といっても過言ではないくらい、ホラー音楽についてやってきましたね。
 現代ホラー音楽の成り立ちから、効果音のような音楽、打楽器の取り入れ方やホラー映画のホラー音楽以外のジャンルについても触れてきました。
 マルコ・ベルトラミさんは他にもたくさんのホラー映画を担当されていて、ホラー音楽職人といっても過言ではありません。
 観たことある映画や、これから観る映画も彼の担当されていることも全然あると思いますので、少しでも気にしてみると面白いと思います。
 今回のサブスクリプションではブレイド2もやっているので、興味のある方は初月無料ですのでぜひ聴いてみてください。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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