#41【遊星からの物体X ファーストコンタクト】ep.1「ホラー映画の音楽ってどんな音楽??」
※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#41にあたる内容を再編集したものです。
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【遊星からの物体X ファーストコンタクトについて】
2011年公開(日本公開2012年)
(1982年の映画『遊星からの物体X』の前日談)
監督:マティス・ヴァン・ヘイニンゲン・ジュニア
音楽:マルコ・ベルトラミ
作曲家紹介
マルコ・ベルトラミさんはまず作家的特徴を挙げるとしたら、遊星からの物体X ファーストコンタクトでもそうなのですが、ホラー映画を中心に音楽を担当されていることが多いです。
有名どころでいうと、スクリームシリーズやオーメン、最近だとクワイエットプレイスシリーズやスケアリーストーリー怖い本も担当されています。
スノーマンやドラキュリア、あとはワールド・ウォーZなどのクリーチャー系というか最新B級ホラーも担当されていますね。
その作曲技法は現代のホラー作品には欠かせない技法をいくつも用い、音での恐怖演出をさせたら世界トップレベルですね。
もちろん、バイオハザード、ターミネーター3、ダイハード4.0やベン・ハー、フォードVSフェラーリやヴェノムといった、ホラー以外の作品もたくさん手掛けられていて、今回のサブスクリプションではブレイド2もやろうと思います。
ですので、今回のシーズンはホラー映画の音楽を分析して何が怖いと感じる要素なのかみていこうと思います。
作曲家作品
バイオハザード
ブレイド2
ターミネーター3
ヘルボーイ
アイ,ロボット
ダイ・ハード4.0、ラスト・デイ
ハート・ロッカー
ウルヴァリン:SAMURAI
ベン・ハー(2016年版)
LOGAN/ローガン
フォードvsフェラーリ(バック・サンダースと共同)
ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ
(ホラー&スリラー作品)
スクリーム1、2、3、4
ミミック
パラサイト
ザ・ウォッチャー
ドラキュリア
ロードキラー
パニック・フライト
オーメン(2006年版)
臨死
ダーク・フェアリー
遊星からの物体X ファーストコンタクト
ウーマン・イン・ブラック 1亡霊の館、2死の天使
ウォーム・ボディーズ
ワールド・ウォーZ
スノーピアサー
キャリー
スノーマン 雪闇の殺人鬼
クワイエット・プレイス1、2破られた沈黙
ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー
スケアリーストーリーズ 怖い本
トワイライト・ゾーン(TVドラマ、2019年版)
アンダーウォーター
フィアー・ストリート Part 1: 1994
登場人物
ケイト・ロイド:
アメリカ人。古生物学者。
サム・カーター:
アメリカ人。ヘリ操縦士。墜落事故から生還する。
映画ラストでケイトに物体だと見破られる。
サンダー・ハルヴァーソン博士:
アメリカ人。生物学者。ケイトに南極での調査を持ちかける。
映画終盤で怪物化し襲いかかる。
ヘンリク:
ノルウェー人。最初の犠牲者。
グリッグス:
アメリカ人。ヘリの搭乗員。
オラフを心配する素振りを見せるが、実はすでに物体に乗っ取られている。
オラフ:
ノルウェー人。ヘリでグリッグスに殺害される。
ジュリエット:
ノルウェー人、女性。コリンを疑う素振りを見せるが、実はすでに物体に成り変わられている。
カール:
ノルウェー人。ジュリエットに殺害される。
ペデル:
ノルウェー人。火炎放射器で歯に詰め物のない4人を見張る。
その後デレクに銃殺される。
エドヴァルド・ウォルナー:
ノルウェー人。観測隊隊長。
ペデルの火炎放射器が爆発したあと脇を抱えられて運ばれるが、腕がずり落ちて正体を表す。
アダム、デレク、ヨナスを殺害。
アダム・フィンチ:
アメリカ人。ハルヴァーソン博士の助手。
エドヴァルドに殺害される。
デレク・ジェイムソン:
アメリカ人、黒人。ヘリの搭乗員。
ヘリ墜落事故から帰還するも、エドヴァルドに殺害される。
ヨナス:
ノルウェー人。
隔離小屋に引きずり込まれたラーシュを見て、助けを求める。
その後正体を表したエドヴァルドに殺害される。
ラーシュ:
ノルウェー人。犬飼育係。
ヨナスと二人で隔離小屋に向かい引きずり込まれるが、最後まで生存した。
コリン:
ノルウェー人。無線通信技師。
映画ラスト、恐怖にかられて自ら喉をかき切った姿が見つかる。
あらすじ
1982年。南極大陸を調査していたノルウェーの観測隊が、金属でできた謎の構造物を発見しました。
主人公であり古生物学者のケイト・ロイドさんは、研究室にやってきたハルバソン博士からこの構造物の調査を依頼されます。
南極へと向かい、ノルウェーの調査隊との合同調査に加わるケイトさんですが、彼女がそこで目にしたのは巨大な宇宙船のようなものと、氷漬けになった正体不明の生物でした。
早速この生物を運び出し、調査が始まりました。
そして遺伝子解析の結果地球上の生命体ではないとわかると、調査隊一同は大いに湧き上がります。
しかし皆が宴会を開くさなか、一人の隊員が氷漬けの生物の様子を見に行くと、突如として生物は氷を突き破り行方をくらましてしまいます。
南極という逃げ場のない環境で、正体不明の生物は隊員たちを次々に襲っていきます。
そして徐々に、この生物の持つ恐ろしい性質も明らかになっていきます。
それは生物が取り込んだ犠牲者の姿を模倣し、何食わぬ顔で人間に紛れている可能性があるというものでした。
誰が怪物かもわからない疑心暗鬼の中、血も凍る惨劇は続きます。
【はじめに】
本来はホラー映画はやるつもりはなかったのですが、遊星からの物体X ファーストコンタクトは大丈夫だろうと、謎の勇気が湧いてきてやってみましたが、普通に怖かったので観る際は十分にご注意ください。
それと僕はNetflixで観たのですが、年齢制限が16+なので、お子様と見る際は十分にご注意ください。
映画としては非常に面白くて、SFパニックホラーというイメージはあったのですが、それだけではなく人を疑う要素が追加されることで、恐怖の対象が広がりどこかサスペンス的な要素も感じる作品でした。
それと今回は謎の地球外生命体のことを「物体」と呼んでいるので、物体と出てきたらその生物のことだと思ってください。
【そもそもホラー音楽ってどんな音楽?】
今回はマルコ・ベルトラミさんの作品をやるので、せっかくなのでホラー音楽ってなんなのか、どうのように作られているのかを話したいと思います。
そもそもホラー音楽ってどんな音楽かというと、それは怖い音楽ですよね。
では怖いと感じる音楽はどういう音楽なのか、それは一言で言うと協和しないハーモニーを使用した音楽と言えます。
もちろん様々な要素は他にもあるものの、これがまず筆頭に挙げられます。
いわゆる不協和音ということですね。
この音楽は20世紀の音楽でクラシック音楽の近代に属する時代に考案された手法です。
それらの手法を作るためのハーモニー、不協和音のハーモニーですね。
そのハーモニーを見つけるために使用される方法論にセットセオリーと呼ばれる手法があります。
セットセオリー
セットセオリーは20世紀のクラシック音楽の中で開発されました方法論で、音階を0~11で表して12で1周することを言います。
(演奏)
例えばC、D♭、E♭を使ったコードは、0-1-3コードと呼ばれることになります。
C、D♭、F#、Gを使ったコードは、0-1-6-7と呼ばれることになります。
これはCから数える必要はなく、Fから始まる0-1-3コードの場合は、F、G♭、A♭を含むことになり、どの音程からも始めることができます。
Fから始まる0-1-6-7のコードは、F、G♭、B、Cということになります。
このようにして3度とか5度とか呼ばずに、半音ずつを数字で管理することで、どのように不協和音を作るかの研究が20世紀音楽ではされていました。
その中で発見された、min2nd(短2度)を使ったコードをいくつか紹介してみたいと思います。
まずは0-1-3-4というハーモニーです。
(演奏)
非常に不快な音ですね。
これは0をCだとするとC-D♭-E♭-Eという音の羅列になります。
次に0-1-4-5というハーモニーです。
(演奏)
これも不快ですね。
まあこれから弾くコードはすべて不快ですけども。
これはC-D♭-E-Fです。
まだ続きますよ。
次は0-1-5-6のハーモニーです。
(演奏)
これはC-D♭-F-F#です。
最後に0-1-6-7のハーモニーです。
(演奏)
これはC-D♭-F#-Gです。
これらはCとD♭の関係を崩さないまま作られたハーモニーです。
なかなかお耳にしんどい時間だったと思うのですが、これらの不快に感じさせたり、息苦しく感じさせる音が存在していて、それらを劇中に織り交ぜることで、観客に体感させるような方法でホラー音楽は作られています。
これらの手法が一般的になったきっかけとなったというか一番の成功を収めた作品が、スタンリーキューブリック監督作品「ザ・シャイニング」です。
スタンリーキューブリック監督は既存のクラシック音楽を使うことが有名でして、ホラー映画でもあるザ・シャイニングではペンデレツキさんやバルトークさん、ゴレッキさんなど、20世紀クラシック音楽のアイデアをそのまま映画に生かしています。
劇中でもベラ・バルトークさん作曲の「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」が使用されていたりします。
この音楽はシャイニングのためではなく、コンサート音楽として書かれた音楽です。
この仕様が大きな影響を与えて、ホラー映画のために音楽が書かれる場合はこの音楽性を参考に書かれることが多くなっていきました。
これらを使うことで、ホラー映画は緊張感や息苦しさ、不快感を覚えさせる音楽へと変化していきました。
話は逸れますが、動画投稿サイトなんかにホラー映画のワンシーンにコメディ音楽を当てたものがあったりします。
それは怖くない映像へと変化する効果を持っています。
なんだかドタバタコメディの様に観えてくるのは、音楽の持つ効果で恐怖を打ち消しているからですよね。
それくらいホラー映画の音楽の持つ影響力は強いです。
この他にもオクタトニックスケールという音階や12ピッチオグメントコードといわれるハーモニー、トライトーンと呼ばれる音の配置などを使うことで、さらにバリエーションを持たせることもできます。
ただ、少し込み入った感じの内容になってしまうので、ここでは割愛します。
もし要望があればまた別の機会にやろうと思います。
クラスター
あとはクラスターという手法があります。
こらは記譜法がありまして、sfzと書いて演奏してほしい音階を黒い四角で塗りつぶすことで、譜面に書くことができます。
これはmin2ndの音、要は半音同士を積み重ねた音を演奏して欲しいという指示になります。
これもよく用いられます。
シェーンベルクの12音技法
ではコードの作り方はこんな感じなのですが、メロディはどうするのかお話したいと思います。
これにはいくつかの方法がありますが、有名なものを紹介するとシェーンベルクの12音技法というものがあります。
これはシェーンベルクさんが考案した作曲技法で、先ほどのセットセオリーで話した0~11までの音を被らずに一周させて作る技法になります。
例えばこういった感じに作曲できます。
(演奏)
非常に不安感のあるメロディですね。
例えばこのメロディに先ほどのコードを当てはめるとこんな感じになります。
(演奏)
これだけでおおまかな怖い曲はできましたね。
これにどこに何の楽器を当てるか、どこを強調するかを考えればホラー音楽らしくなっていきます。
さらに映像に親和性を持たせれば演出として完成していきます。
これがホラー映画の音楽のおおまかな概要です。
【巧みで効果的な音楽】
この映画では音楽が演奏される回数は70回を超えています。
そのうちホラー映画には欠かせない音楽が10回以上出てきます。
それは効果音としての音楽です。
これはいくつかに絞って紹介しようと思います。
というか「ここは驚くシーンですよ」のタイミングで演奏されるため、あんまり紹介しすぎると映画が面白く無くなってしまうのでね。
これは音楽で驚かすというよりは、映画内の演出で驚かせるのに付随する形で演奏されているという感じですね。
その適切なタイミングで、先ほど紹介したクラスターや不協和音が演奏されています。
それと驚かす意味を含めない効果音の様な音楽も登場します。
それは何かが起きそうな、ドキドキするシーンです。
近くで物音がして、それを恐る恐る観に行く。みたいなシーンですね。
その時にも音楽は用意されています。
その時の音楽が他の楽曲と違う点は、例えば先ほどのシーンをいくつかに分解したとします。
ひとつめに、状況や現場に不信感を抱きます。
ふたつめに、物音がなります。
みっつめに、恐る恐る観にいきます。
よっつめに、なにもありませんでした。
というシーンがあった場合、ふたつめまでは演奏がなく、恐る恐る観に行く時に演奏が始まり、何もなかったという結果で演奏は止まります。
このように、演奏自体は短く端的にキャラクターの行動のみを描いています。
例えばひとつめから音楽がついている場合は、端的ではなくどのような状況であり、それがどのような結果に向かったかを音楽で表現します。
このように音楽自体にストーリーが生まれたら、それは効果音的な音楽と呼べなくなります。
少し乱暴な言い方をすると、ミッキーマウジング的な使い方がされている場合は効果音的な音楽ということになりますね。
ですので、何かが飛び出してくる様なシーンでも、大きな音でクラスターなどが演奏されます。
それには音楽的なタイトルが付かない音楽として扱われて、映画の大事な要素として組み込まれます。
それがこの映画には非常によく登場します。
効果音としての音楽 シーン1
まずは
24:32
デレクさんが氷漬けの物体を観に行った時に、ペーダーさんに後ろから脅かされるシーンです。
ここは普通に椅子から飛び上がるほどびっくりしたシーンなので、あまり紹介したくはなかったのですが、非常に効果的だったので紹介しておきます。
「ワッ」という声とほぼ同時にオーケストラヒットのような音が鳴ります。
イメージ通りですよね。
すこし細かい話ですが、デレクさんが食い入る様に氷漬けの物体を観ている時は「くるぞくるぞ」と観ていてもわかるシーンです。
そこで、音楽的な演出でレイザーのような「シャー」と少しずつ大きくなる音で「くるぞくるぞ」を演出します。
しかし1回目のそのレイザーではなにも起こらず演奏は止まります。
その後唐突に「ワッ」という演出が入ります。
これは一回安心させておいて、すぐ来るパターンですね。
観ていても完全に騙されました。
このように驚かすための演出として、音としての理解がなくても体感的に安心と緊張を使い分けることで、恐怖演出として使用しているシーンがいくつもあります。
この細やかな恐怖への配慮がホラー映画の驚きの体験を生んでいるわけですね。
効果音としての音楽 シーン2
次に
38:19
主人公のケイトさんが憔悴しきったオラフさんとすれ違うシーンです。
この時にすでにケイトさんは物体が人を乗っ取るということに気づき始めています。
ですので、オラフさんを疑ったのか心配したのかはちょっとわかりませんが、彼の顔をみている時に効果音としての音楽が演奏されます。
ひとつの音を伸ばしているのですが、すれ違いざまに音が山なりで大きくなりまた収束していきます。
音楽を演奏しきるのではなく、少し音楽的な要素を与えることでその瞬間の不安を感じさせています。
効果音としての音楽 シーン3
つぎは
54:48
ケイトさんとラーシュさんが物体を隔離するために車を壊しにいき、そこでラーシュさんから手投げ弾があることを教えてもらうシーンです。
この時、エドヴァルドさんに声をかけられた時に演奏されます。
サスティンシンバルとローブラス(低音の金管楽器)が演奏されます。
ここが効果音のような音楽ですね。
そのまま次の音楽に演奏が引き継がれる様にスムーズに移動する様は見事ですね。
このシーンでは物体に手投げ弾の存在を知られたくないので、声をかけられ驚く演出となったわけですね。
さらにいうとエドヴァルドさんが物体に乗り移られているのかもしれないという疑いも、同時に観客に与える効果も担っているとても効果的な音ですね。
効果音としての音楽 シーン4
最後に
1:16:41
からの1分17秒間です。
ケイトさんとサムさんが物体を見つけて燃やすために、基地内をうろうろするシーンです。
この1分17秒は非常に緊張感があり、効果音のような音楽がオンパレードです。
というのもひとつめのシーンで話した「くるぞくるぞ」の演出が連発するからです。
出てきそうで出てこない焦らしを、1分以上も続けられると本当に心臓が持ちません。
音としては常に山なりのボリュームを持った伸ばした音(サスティン)それと時折映像に合わせた金管楽器が登場します。
観客は非常にドキドキさせられ、むしろ物体が出てきた方が安心する気までさせます。
ここはこの効果音のような音楽ありきでの演出ですね。
無音というのも効果的に思えますが、音楽は微量でドキドキを助長させる働きがあります。
これは観る際は十分にドキドキしてください。
巧みで効果的な音楽 まとめ
今回は効果音の様な音楽が演出的にどの様な場面で、どのように使用されていたかをみてきました。
それは映画の演出的にやはり驚いて欲しい点に配置されていて、とても意地悪な音楽でした。
このような演出は他のホラー映画やホラーゲームなどでもよく使用される手法なので、音楽に身を任せるととても怖い思いをします。
【エンディング】
今回はホラー映画の音楽とは、という説明と、効果音の様な音楽をみてきました。
観客を恐怖させるために作られていて、非常に繊細な演出によってさらに怖さを助長していることがわかりました。
サブスクリプションでは劇中に登場する「ミーティング オブ ザ マインズ」という楽曲をどの様に作っているかと、ブレイド2から1曲フォーカスしてその作り方をやりたいと思います。
興味のある方は初月無料ですのでぜひ聴いてみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
ではまた!